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ごはんを食べたあとにフラつく猫ちゃんの話【迷走神経反射かも?】

カテゴリ : 循環器


「ごはんを食べだしてしばらくするとふらつくんです。ささえていないと倒れてしまうくらいの感じです。」

ある日、そんなご相談を受けました。

「えっ、そんなことあるのかな。何かあったかな。」
そう思いながら、飼い主さんが持参された動画を見てみると……まさにおっしゃっていた通りのことが起こっていました。

体の状態を調べてみることに

正直そのときは「いったい何なんだろう」と思いながらも、まずは検査をして今の体の状態を確認しましょうとお話しました。

というのも、この猫ちゃんには持病として「拘束型心筋症」と「甲状腺機能亢進症」があったからです。

このふたつの病気、どちらも「心臓がドキドキしやすくなる」特徴があります。

心臓が過剰に働くと、ふらつきや失神の原因になることがあるんですが、それがうまくコントロールできていないのかなと思ったんです。

でも、「なぜごはんのときにだけ?」という疑問は残りました。

迷走神経反射?と思い至るまで

検査日までの間、いろいろと考えていた中で「ひょっとして、迷走神経反射(めいそうしんけいはんしゃ)かも?」と気づきました。

ごはんを食べると、食べ物が喉を通ったり胃が広がったりすることで「迷走神経」という神経が刺激されます。

すると、体はリラックスモードに入ります。

この反応は、健康な体にとってはすごく自然で有益なことです。

エネルギーを効率よく吸収するために、体が無理をしないようにしてくれているんですね。

でも、この猫ちゃんはすでに「心臓を落ち着かせるお薬」を2種類のんでいました。

そこに迷走神経反射が加わると、心臓の動きが抑えられすぎてしまったのかもしれません。

お薬を調整してみると…

検査の結果、持病の心筋症や甲状腺の状態はちゃんとコントロールできていました。

やっぱり今回のふらつきは「迷走神経反射」の影響が強かったと考えられます。

そこで、お薬のうちのひとつをいったん中止してみました。

すると――
ごはんを食べたあとにふらつく様子は、ほぼ見られなくなったんです。

おわりに:ちょっと不思議な「食後のふらつき」

「ごはんのあとにフラつく」という少し不思議なご相談から始まった今回のケース。

迷走神経反射自体は健康な体にも起こるものですが、持病やお薬の影響が重なると、ちょっとしたことで体のバランスが崩れることもあります。
2025-05-14 06:00:00

初めての血圧測定で見えたこと

カテゴリ : 循環器



慢性腎臓病の猫ちゃんを診ている中で、初めての血圧測定で著しい高血圧症が見つかった子がいました。

猫ちゃんの正常な血圧は、一般的に140mmHg以下とされており、160mmHgを超えると治療の検討が必要になってきます。

この子は初回測定で200mmHg超え。何度測ってもほとんど変わらず、びっくりしました。

もちろん、猫ちゃんは緊張や動きで実際より高めに出やすいので、そこから1020くらい差し引いて考えることも多いです。

それでも180mmHg前後と見積もられ、「高いことは間違いない」と判断しました。
 
数日かけて慎重に判断

1日の測定だけで「高血圧症」と決めるのは避けたいので、何日かに分けて繰り返し測定しました。

その結果、毎回やはり高値が続いていたため、この子には高血圧症と診断し、治療を開始することにしました。
 
最初に使ったのはテルミサルタン
 
猫ちゃんの高血圧治療薬には、

  • アムロジピン(Ca²⁺拮抗薬)
  • テルミサルタン(ARB系)

  • 2種類がよく使われます(場合により併用もあり)。

この子のオーナー様が「液状のお薬がいい」とご希望されたため、テルミサルタンを選びました。

アムロジピンは日本では錠剤しか入手できません。
 
一時的な改善と再上昇
 
テルミサルタンを開始してから1週間ほどで、血圧は170180mmHgに。

数値としてはまだ高めですが、以前の200台からは改善が見られたので、そのまま継続。

しばらくは160台で安定していましたが、徐々に再び上昇してきました。
 
アムロジピンへの切り替えを決断


 
この子は比較的おとなしく血圧測定に協力的なので、数値は信頼できるものでした。

再び180190台が続いたため、オーナー様にアムロジピンへの切り替えを提案しました。

実は、アムロジピンは猫の高血圧における第一選択薬ともされており、特に180mmHgを超えるような場合に有効性が高いとされています。


薬剤名

主な作用 血圧への影響
テルミサルタン アンギオテンシンをブロックして、腎臓の血管を先に拡張全身の血圧をゆるやかに低下させる 間接的・ゆるやか
アムロジピン カルシウムが血管の筋肉に入るのをブロック血管の収縮を防いで広げる 直接的・強力
  
※VASDILATION(血管拡張)


血圧が140台まで改善



アムロジピンへ切り替えてしばらく経ったころ、再度測定すると血圧が140台に!

ようやく正常範囲に近づきつつあることが確認できました。
 
まとめ

 猫ちゃんの血圧は、一度測っただけでは判断できないことが多く、繰り返し測定しながら慎重に診ていく必要があります。

また、お薬にもそれぞれ得意な場面・働き方があり、その子に合わせた選択が大切になります。

「うちの子も血圧測った方がいいのかな?」と気になる方は、ぜひ一度ご相談くださいね。
 
2025-05-07 07:00:00

猫の心雑音と心臓肥大、その原因は甲状腺かもしれません

カテゴリ : 循環器


3月5日のブログでご紹介した猫ちゃんの続きになります。

下痢と体重減少を主訴に来院され診察中に心雑音を認め、血液検査で甲状腺機能亢進症と診断した猫ちゃんです。

今回はその後に実施したレントゲンやエコー検査からわかってきた「心臓の状態」についてのお話です。

1 心筋症にはタイプがあります

(真の心筋症と、ほかの病気が原因で起きる心筋症)

2月19日のブログでは

①心筋症にはもともと心臓に問題があって発症する真の心筋症と何か先行する原因が合ってそれにより引き起こされる二次的な心筋症に分ける事が出来ます。

②先行する原因としては高血圧症、甲状腺機能亢進症、末端肥大症、脱水、腫瘍などが考えられます。

③先行する原因が高血圧症による肥大型心筋症なら「高血圧症に伴う肥大型心筋症フェノタイプ」というように最後にフェノタイプという言葉をつけて真の肥大型心筋症と区別します。

というようなお話をしました。

2 今回の猫ちゃんも“フェノタイプ”でした

(甲状腺機能亢進症が先にあったケース)

今回のエコー動画の猫ちゃんも肥大型心筋症の疑いがあるのですが甲状腺機能亢進症が先行する原因と考えられましたので「甲状腺機能亢進症に伴う肥大型心筋症フェノタイプ」と診断しました。

実はこのエコー動画は3月5日のブログでお話しをしました甲状腺機能亢進症を発症した猫ちゃんのものです。

3 血液検査で見えてきた心臓の負担

(pro-BNPとTT4の高値)

エコー検査に先立って聴診器で心雑音を、血液検査でpro-BNPおよびT4値の上昇を認めていました。

pro-BNPは心臓に負担がかかると血液中で増える成分です。

下の画像はpro-BNP値の上昇を検出する簡易キットです。向かって右側の青い丸のほうが濃ゆく出るとpro-BNP値が上昇していることを示します。

※画像は別の猫ちゃんの結果です


TT4は甲状腺のホルモンです。基準値が0.8-4.7のところ20.0以上となっています。



4 レントゲンでわかった心拡大

(数値で見ても明らかな心臓の大きさ)

これらの結果から甲状腺機能亢進症に伴う心筋症が疑われましたのでレントゲンおよびエコー検査も行いました。

レントゲン検査です。胸部を左横からながめている感じですがが心臓が大きくなっていました。

心臓の縦の長さ(ピンク)と横の長さ(ブルー)をそれぞれ測り、それぞれの長さがが4番目の胸椎の先頭(イエロー)から胸椎何個分になるかを調べます。

この子のケースでは縦の長さ(ピンク)は胸椎5.5個分、横の長さ(ブルー)は4.8個分でした。

その数値を足し算すると10.3となりました。

猫ちゃんではこの数値は7.5前後が基準とされていますので10.3はかなり心臓が大きくなっていることを表しています。



比較の為に正常な猫ちゃんのレントゲン画像も載せておきます。ピンクの長さは4.3個分、ブルーの長さは3.1個分、足し算すると7.4で基準値に近い値でした。


5 エコー検査でわかった壁の厚みと左心房の拡大

(心筋の肥大)

次に心臓の内部の様子を見るためにエコー検査をおこないました。上の動画がその時のものです。

下の画像は上の動画で心臓が一番拡張した時の静止画です。点線1では心臓の右と左を分ける壁(筋肉)の厚さを、点線2(黄色の点線)では左側の心臓の壁(筋肉)の厚さをそれぞれ測っています。

点線1は5.3㎜、点線2は6.1㎜でした。心臓の壁の厚さが6.0㎜を超えてきたら心筋の肥大を疑いますので血液検査の結果と合わせて「甲状腺機能亢進症に伴う肥大型心筋症フェノタイプ」と診断しました。



次の画像は上の動画で心臓の左心房とよばれる場所に一番血液が流入した時の静止画です。

点線部でその時の左心房の幅を測っているのですが19.5㎜で基準値の上限と言われている17.0㎜を超えてきています(左心房拡大)。これは心臓の負担がそれなりに進行していることを示しています。

また左心房の拡大は左心房内での血流の乱れがあることも示しており血流の乱れは血栓(血のり、血の固まったもの)を生じさせる可能性があります。

血栓が心臓を飛び出し大事な血管を詰まらせると大変なことになります。

※左心房の拡大が認められますが血栓はありません。


6治療と今後の注意点

(甲状腺と血栓予防の薬について)

治療は甲状腺ホルモンの働きをブロックするお薬と血栓を予防するお薬を処方しました。

甲状腺の病気が見つかって治療を始めたことで見た目の症状が落ち着いてきたように見えても実際には体の中で心臓に負担がかかっていることもあります。

今回の猫ちゃんのようにひとつの病気が他の臓器にも影響を与えることがあるため、状況に応じて定期的な検査や経過の確認が大切になります。

気になることがあればいつでもご相談くださいね。
2025-04-02 09:00:00

高血圧症を伴う肥大型心筋症フェノタイプと診断した猫ちゃんのその後

カテゴリ : 循環器




昨年2月28日と3月6日のブログで話題にしました「高血圧症に伴う肥大型心筋症フェノタイプ」と診断しました猫ちゃんのその後の経過です。

この猫ちゃんは健康診断時の血液検査でNT-proBNPと呼ばれる項目の数値が異常にに跳ね上がっていました。

基準値が100 未満のところ1431.8と実に上限の14倍の値です。

NT-proBNP値の上昇は心臓に負担がかかっていることを教えてくれています。

そこで心臓のエコー検査を実施したところ心臓の壁(筋肉)が分厚くなる(心筋肥大)ことで様々な障害をおこすようになる肥大型心筋症フェノタイプであることが判明しました。



心臓が一番拡張した瞬間に動画を止めて心臓の壁の幅を測ります。

点線1は心臓の左右を隔てる壁で7.5mm

点線2は心臓の左側の壁で7.9mm でした。

この幅が6.0㎜以上になってくると肥大型心筋症ではと考えていきます。


ところでブログタイトルにもありますように肥大型心筋症の後ろにフェノタイプという言葉がついているのは何故でしょうか。

フェノタイプは日本語では表現型と言います。

エコー検査で心筋肥大を確認した時に「これは肥大型心筋症」と言ってしまうとそれは後述する真の心筋症を示していることになってしまいます。

循環器の専門医さんに聞かれると叱られるかもしれませんがおおまかに言いますと 心筋症は「何か原因となる病気があってそのために二次的に引き起こされる心筋症」と「先行する病気が他になく心臓そのものに問題がある(心筋に関連した遺伝子の変異など)と思われる真の心筋症」の二つに大別することができます。

それでエコー検査で心筋の肥大を確認した時にはとりあえず肥大型心筋症フェノタイプと表現しておきます。

(ちなみに心臓の壁が硬くなっている時は拘束型心筋症フェノタイプ、心臓の壁が薄っぺらい時は拡張型心筋症フェノタイプ、右心系に目立って問題がありそうな時は不整脈原性右室心筋症フェノタイプ、どれにも当てはまりそうでない時には非特異型心筋症フェノタイプと表現します。)

その後の検査で先行する原因がわかったら「〇〇症に伴う肥大型心筋」としたいところですがフェノタイプは付けたままで「〇〇症に伴う肥大型心筋症フェノタイプ」と表現します

猫ちゃんの場合「先行する何か原因となるトラブル」としては高血圧症、脱水、腫瘍、末端肥大症、甲状腺機能亢進症などが考えられます。

例えば甲状腺機能亢進症が先行しその為に発症した肥大型心筋症なら「甲状腺機能亢進症に伴う肥大型心筋症フェノタイプ」というふうに言い表します。

この猫ちゃんは収縮期血圧が174で高血圧症と判明しましたので「高血圧症に伴う肥大型心筋症フェノタイプ」と診断しました。

高血圧のガイドライン

140未満   正常
140-159  前高血圧
160-179  高血圧
180以上   重度の高血圧  

治療は血圧を下げるお薬の内服になります。 

およそ半年後の健診時の血圧は150で前高血圧まで改善していました。

NT-proBNP値も394.8(一番上の画像参照)まで下がっていました。

同時にエコー検査を行いました。



心臓が一番拡張した瞬間に動画を止めて壁の厚さを測定しました

点線1 心臓の左右を分ける壁の厚さ 7.5mm→6.9mm

点線2  心臓の左側の壁の厚さ 7.9mm→7.3mm 

と※改善傾向が認められました。

※二次的な心筋症の場合、先行する原因を治療することで分厚くなった壁厚の改善がみられる事があります。
 
2025-02-19 06:00:00

徐脈性不整脈 :第3度房室ブロック

カテゴリ : 循環器



ある猫ちゃんの保護施設から健康診断の依頼がありその一環として心エコー検査を実施しました。

心音の聴診の時から感じていたのですが徐脈という心拍数が減少する状態が確認されました。

画面の右上の方にHR95とありますがこれは現在の心拍数が1分間に95回ですよという事です。

猫ちゃんの正常な心拍数は人に比べて速く文献にもよりますが120以上それこそ病院に来て緊張でドキドキしていると200前後ということも普通で検査中の猫ちゃんならいつもよりさらに速くなります。

ですので検査中の心拍数95はかなり遅いと考えてください。

それで原因を考えたのですがエコー画面の下に出ている心電図を見て「房室ブロック」ではと考えました。

房室ブロックについては後で簡単に説明をさせて頂きますが何種類かあるのですが自信をもって「こういう種類の房室ブロックですよ」と診断できませんでしたので循環器科のある二次病院を受診していただきました。

結果は「第3度の房室ブロック」との診断でした。

ここからは第3度の房室ブロックの説明です。


上はエコー動画のある瞬間の静止画です。

RA:右心房 この動画では大動脈に隠れて見えていませんので白い線で描いています
RV:右心室
LA:左心房
LV:左心室
①:洞房結節 いわゆるペースメーカーで右心房にあります。
②:房室結節

ぺースメーカーで生じた電気信号が緑の矢印を伝わって心房→心室の順で心臓が収縮します。血液は心房から心室へ流れていきます。

①が興奮し電気信号が生じると心房が収縮します。その心房が収縮する時に心電図上ではP波と呼ばれる波形が記録されます。ちなみに①の興奮は心電図でとらえることができません。

①で生じた電気信号は心房を収縮させるとともに②を刺激します。

刺激を受けた②も興奮し心室に電気信号をおくり心室を収縮させます。心室の収縮は心電図上ではQRS波と呼ばれる波形で記録されます。

それでこの猫ちゃんの心電図を見た時に「P波とQRS波の間隔がやけに広いなぁ、①で生じた電気信号が②から先にきちんと送られていない、心房と心室の間がブロックされているんじゃないのかなぁ」と感じました。通常はP波の直ぐ後にQRS波がきます。

第3度の房室ブロックとは上の図のピンクの×印のところで完全に電気的な流れが遮断されている状態の房室ブロックの事で完全房室ブロックとも言います。

でも電気信号が遮断されているのに遅いながらも心室も収縮し心電図でも心室の収縮を示すQRS波が記録されていますよねこれは何故でしょうか。

「心房から心室に電気信号が伝わらないからもう心室は収縮しなくていいや」では体に血液が循環しなくなり大変なことになってしまいます。

そこで体は不思議なもので心室の細胞の一部が自らペースメーカーを務めるようになり血液の循環を保とうとします。

上の画像では③の場所(この場所は僕が適当に決めたもので本当はどこかわかりません)としています。

この心電図でとらえられたQRS波は①の電気信号が伝わって記録されたものではなく③がペースメーカーとなり記録されたものとなります。

治療ですがこの猫ちゃんは今のところ体調に変化はないので経過観察となり何らかの心臓病の症状が出てきた時にそれに対応していくことになりました。
2024-11-13 03:00:00

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猫のフィラリア症ムービー(リンク先に動画があります)
https://www.nekomamo.com/parasite/filaria/movie/

  1. 動物園勤務から病院へ
  2. プロフィール
  1. 週齢はどれくらい?
  2. まず行うこと
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