
ストルバイト結晶と尿pHのお話
ストルバイト結晶は、尿がアルカリ寄り(pHが高め)になるとできやすく、療法食は尿を少し酸性に保って結晶を溶かしやすくするように作られています。
ですが、先日診させていただいた猫ちゃんでは、
環境も問題なし
療法食もきちんと継続
元気もある
にもかかわらず、
いつ検査しても pH 7前後(アルカリ性)
ストルバイトが持続
という状態が続いていました。
なぜ1日3回にしてみたのか
この猫ちゃんは自由採食(ちょこちょこ食べ)でした。
猫はごはんを食べると、胃で酸が出る影響で一時的に尿がアルカリ寄りに傾きます(※食後アルカリ潮)。そこで私はこう考えました。
※食後に尿がアルカリ寄りになる生理的な現象です
少量でも何度も食べているせいで、尿が酸性に戻る時間が取れていないのではないか?
この「ずっとアルカリ性」という状態が結晶の持続に関係している可能性を疑ったのです。
そのため、1日3回の定時給餌(食べる時間をまとめる)を試していただきました。
結果は、
pH が6前後に改善
ストルバイトはほぼ消失
非常に明確な変化が見られました。
その矢先に聞いたセミナーで逆の話が出てきた
ブログを書いていたちょうどそのとき、猫専門の先生の下部尿路症状(LUTS)のセミナーを聴く機会がありました。
そこで紹介されたのが、「ちょこちょこ食べの方がストルバイト形成を予防できるのでは?」というおそらく15年ほど前?の研究でした。
講師の先生から共有されたのは、ごく短い口頭説明だけでした。
どか食いは尿が一気にアルカリ性に傾きやすい
その際にストルバイトが形成されやすいのではないか
だから、ちょこちょこ食べにすると急激な変動を避けられるかもしれない
という趣旨で、詳細なデータや条件までは紹介されていませんでした。
ただ、その説明を聞いたとき、
「じゃあ今回の自分の考察は間違っているのだろうか?」と、少し不安にもなりました。
症例で得られた確かな変化と、研究が示唆する方向性が一致しないことに、戸惑いを覚えたのです。
研究の示唆と今回の症例
そこで、相反する対応でもそれぞれ良い結果が出た理由について、自分なりに“落としどころ”を考え直してみました。
今回の当院のケースでは、
ちょこちょこ食べ → ずっとアルカリ性 → 結晶が持続
→ 定時給餌(1日3回)で改善
という経過でした。
一方、セミナーで紹介された研究の示唆は、
どか食い → 一気にアルカリ性 → 良くないかも
→ ちょこちょこ食べで改善?
という、まったく逆のスタイルを指していました。
一見すると正反対ですが、どちらの方法でも改善が見られた理由は、
猫によって食後の尿pHの変動パターンが大きく異なるから だと考えています。
・ちょこちょこ食べで安定する猫
・定時給餌で安定する猫
どちらのタイプも存在し、
その猫にとって“尿pHが最も安定する食べ方”を見極めることが大切
なのだと感じています。
今回の猫ちゃんが示してくれたこと
この猫ちゃんは、
・少しずつ何度も食べる頻度が多かった
・その体質では尿が酸性に戻りにくかった
・結果として常にアルカリ性という状態だった
という可能性が高いタイプでした。
そこに定時給餌を導入したことで、
・食後の変動はある
・その後に戻る時間が確保できた
その結果、pHが落ち着き、結晶が減ったと考えられます。
一方、研究で示唆されていたケースは、
「どか食いをすると尿pHが急激にアルカリ側へ振れやすい猫」が対象になっていた可能性があります。
このタイプの猫では
、
・一度の食事量が多い
→ 食後に大きなアルカリ化が起きる
→ その瞬間に結晶が形成されやすい
という特徴が強く出るため、
食事を細かく分けて急激な変動を抑えることで、
結果として一日の尿pHが安定したのだろうと考えられます。
いわば、
・どか食い → “強い山”が生じる
・ちょこちょこ食べ → 山が小さくなり安定
というパターンで、当院の症例とは逆の反応タイプだったのでしょう。
まとめ
ストルバイト結晶の管理は、
フードの内容
飲水
ストレス
採尿のタイミング(朝一が特に大切)
そして食べ方
これらが組み合わさって決まります。
今回感じた結論は、
療法食を食べているのに結晶が減らない場合、食べ方も見直す価値があるということです。
そして、
ちょこちょこ食べで安定する猫
定時給餌で安定する猫
どちらのタイプもいます。
その猫ちゃんに合う食べ方を一緒に探していく。
それが一番現実的で、結果が出やすい方法です。


















