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猫の糖コントロールを考える

カテゴリ : 内分泌:ホルモンの異常や糖尿病

―― メーカーの設計思想と、実際の代謝の話 ――


糖尿病の猫ちゃんに処方される「糖コントロールフード」。

メーカーの説明では、
「炭水化物の種類と量を調整し、糖の吸収をゆるやかにして血糖値を安定させる」
とされています。

これは人や犬の“低GI療法”の発想に近く、「食後の血糖の上昇をゆるやかにする」ことで、膵臓への負担を減らす考え方です。

この説明は決して間違いではありません。

実際、炭水化物の内容や食物繊維のバランスは、血糖変動の安定に役立ちます。

ただ、猫の場合は少し事情が違います。

猫はもともと、糖を早く吸収する能力が低く、食後の血糖上昇も人や犬ほど大きくありません。

唾液に※アミラーゼをほとんど含まず、膵アミラーゼ活性も犬の10分の1以下。

※糖分を分解

つまり、猫では“吸収をゆるやかにする”というより、「糖を入れすぎないようにする」ことが本質になります。



メーカーの考え方と、猫の体の仕組みの実際



メーカーの言う「吸収をゆるやかにする」は、猫にとっても理にかなっています。

糖をいきなり多く入れない工夫は、確かに代謝を助けます。

ただ臨床の現場では、それに加えて「糖の総量負荷を抑える」ことがより重要になります。

猫は糖を食べて得る動物ではなく、たんぱく質から糖を作り出す動物。

そのため、炭水化物を控え、たんぱく質をしっかり摂ることで、
本来の“自分で糖を作って使う”代謝バランスを守ることができます。

つまり――メーカーの言う「吸収をゆるやかに」は、猫にとっては「糖の量を入れすぎない」という意味に近いのです。

どちらの説明も、向いている方向は同じ。
「血糖を乱さず、体にムリをかけない」

そのための設計、という点では一致しています。


 筋肉を守る=糖を守る



もうひとつ、糖コントロールで大切なのは「高たんぱく設計」です。

筋肉は糖を“使う場所”であり、また糖を“作る材料”でもあります。

筋肉が減ると、糖を使う力も、作る力も弱まります。

だからこそ、筋肉を守ることが血糖を守ることにつながります。

糖コントロールフードは、高たんぱくで筋肉を維持し、体が無理なく糖を扱えるように設計されています。



 まとめ:ふたつの視点は矛盾しない



   メーカーの説明:
「糖の吸収をゆるやかにして血糖を安定させる」

獣医師の補足:

「猫ではもともと吸収はゆるやか。大切なのは糖の総量を抑え、体の中でムリをさせないこと。」

この二つは、実は同じ方向を向いています。

猫の糖コントロールとは、**“糖を食べさせすぎず・無理をさせず・糖代謝を本来のリズムに戻してあげる”**こと。

それが、体にやさしい本当の意味での“血糖を整える”ということなのです。
2025-11-26 05:00:00

ストルバイトが消えない…実は“食べ方のクセ”が原因だった猫の症例

カテゴリ : 腎・泌尿器

ストルバイト結晶と尿pHのお話


ストルバイト結晶は、尿がアルカリ寄り(pHが高め)になるとできやすく、療法食は尿を少し酸性に保って結晶を溶かしやすくするように作られています。

ですが、先日診させていただいた猫ちゃんでは、

環境も問題なし

療法食もきちんと継続

元気もある

にもかかわらず、

いつ検査しても pH 7前後(アルカリ性)

ストルバイトが持続

という状態が続いていました。


なぜ1日3回にしてみたのか


この猫ちゃんは自由採食(ちょこちょこ食べ)でした。

猫はごはんを食べると、胃で酸が出る影響で一時的に尿がアルカリ寄りに傾きます(※食後アルカリ潮)。そこで私はこう考えました。

※食後に尿がアルカリ寄りになる生理的な現象です

少量でも何度も食べているせいで、尿が酸性に戻る時間が取れていないのではないか?

この「ずっとアルカリ性」という状態が結晶の持続に関係している可能性を疑ったのです。

そのため、1日3回の定時給餌(食べる時間をまとめる)を試していただきました。

結果は、

pH が6前後に改善

ストルバイトはほぼ消失

非常に明確な変化が見られました。


その矢先に聞いたセミナーで逆の話が出てきた


ブログを書いていたちょうどそのとき、猫専門の先生の下部尿路症状(LUTS)のセミナーを聴く機会がありました。

そこで紹介されたのが、「ちょこちょこ食べの方がストルバイト形成を予防できるのでは?」というおそらく15年ほど前?の研究でした。

講師の先生から共有されたのは、ごく短い口頭説明だけでした。

どか食いは尿が一気にアルカリ性に傾きやすい

その際にストルバイトが形成されやすいのではないか

だから、ちょこちょこ食べにすると急激な変動を避けられるかもしれない

という趣旨で、詳細なデータや条件までは紹介されていませんでした。

ただ、その説明を聞いたとき、
「じゃあ今回の自分の考察は間違っているのだろうか?」と、少し不安にもなりました。

症例で得られた確かな変化と、研究が示唆する方向性が一致しないことに、戸惑いを覚えたのです。



研究の示唆と今回の症例

そこで、相反する対応でもそれぞれ良い結果が出た理由について、自分なりに“落としどころ”を考え直してみました。

今回の当院のケースでは、

ちょこちょこ食べ → ずっとアルカリ性 → 結晶が持続
→ 定時給餌(1日3回)で改善

という経過でした。

一方、セミナーで紹介された研究の示唆は、

どか食い → 一気にアルカリ性 → 良くないかも
→ ちょこちょこ食べで改善?

という、まったく逆のスタイルを指していました。

一見すると正反対ですが、どちらの方法でも改善が見られた理由は、
猫によって食後の尿pHの変動パターンが大きく異なるから だと考えています。

・ちょこちょこ食べで安定する猫

・定時給餌で安定する猫

どちらのタイプも存在し、
その猫にとって“尿pHが最も安定する食べ方”を見極めることが大切
なのだと感じています。



今回の猫ちゃんが示してくれたこと

この猫ちゃんは、

・少しずつ何度も食べる頻度が多かった

・その体質では尿が酸性に戻りにくかった

・結果として常にアルカリ性という状態だった

という可能性が高いタイプでした。

そこに定時給餌を導入したことで、

・食後の変動はある

・その後に戻る時間が確保できた

その結果、pHが落ち着き、結晶が減ったと考えられます。

一方、研究で示唆されていたケースは、

「どか食いをすると尿pHが急激にアルカリ側へ振れやすい猫」が対象になっていた可能性があります。

このタイプの猫では

・一度の食事量が多い

→ 食後に大きなアルカリ化が起きる

→ その瞬間に結晶が形成されやすい

という特徴が強く出るため、
食事を細かく分けて急激な変動を抑えることで、
結果として一日の尿pHが安定したのだろうと考えられます。

いわば、

・どか食い → “強い山”が生じる

・ちょこちょこ食べ → 山が小さくなり安定

というパターンで、当院の症例とは逆の反応タイプだったのでしょう。

まとめ


ストルバイト結晶の管理は、
フードの内容
飲水
ストレス
採尿のタイミング(朝一が特に大切)
そして食べ方
これらが組み合わさって決まります。

今回感じた結論は、
療法食を食べているのに結晶が減らない場合、食べ方も見直す価値があるということです。

そして、
ちょこちょこ食べで安定する猫
定時給餌で安定する猫
どちらのタイプもいます。

その猫ちゃんに合う食べ方を一緒に探していく。

それが一番現実的で、結果が出やすい方法です。
2025-11-19 04:55:59

新入り猫には症状がないのに、先住猫に出た皮膚糸状菌

カテゴリ : 皮膚病

※真菌培養検査 真菌(カビ)が生えると黄色い寒天培地が赤く変色します。


新しく迎えた猫ちゃんをワクチン接種のために連れて来院された飼い主さんがいました。

その子は少し鼻炎がありましたが、全身状態は安定しており、予定通りワクチンを打つことができました。


※新しく迎えられた猫ちゃんです。ワクチン接種証明書用の写真しか残していませんでした。

診察中の相談


そのとき、飼い主さんがスマートフォンの写真を見せてくれました。

写っていたのは先住猫の耳で、毛が抜けているとのことでした。

「一度連れてきてください」とお伝えしました。


翌日の来院




翌日、実際に連れて来られたのは別の先住猫でした。

その子の耳にも脱毛があり、ウッド灯で調べると鮮やかに蛍光反応を示しました。



皮膚糸状菌症(真菌症)です。真菌培養も陽性でした。(最初の画像)

おそらく写真で見せてもらった最初の子も、同じ真菌症だったのでしょう。




不思議な点


不思議なのは、新入り猫には皮膚の異常がまったくなかったことです。

にもかかわらず、先住猫2匹にだけ症状が現れました。

皮膚糸状菌は保菌していても発症しないことがあり、今回の新入り猫も無症状キャリアとして病原体を持ち込み、感受性のあった先住猫の方に症状が出たと考えられます。


まとめ


完全室内飼育だからといって病気の心配がないわけではありません。

新しい猫を迎え入れることで病気が家に持ち込まれることがあり、しかも今回のように「持ち込んだ新入りは無症状、先住猫にだけ症状が出る」というケースもあります。

皮膚糸状菌は環境に残りやすく、人にも感染する可能性があるため注意が必要です。

新しい猫を迎えるときには、その子だけでなく、先住猫たちをどう守るかという視点もぜひ持っていただきたいと思います。
2025-11-05 09:00:00

診察のあと

カテゴリ : その他


今日、診察が終わり、

スタッフが帰ったあと、ザ・スミスの “Asleep” を流していました。

ピアノの音が、器機の音や冷蔵庫のモーターといっしょに、

小さく、ゆっくり響いていました。

特に大きなことはありませんでしたが、

いくつかの顔が頭に浮かびます。

キャリーに戻っていく猫たちの後ろ姿。

キャリーの扉をそっと閉める飼い主さんの手。

モリッシーの声が遠くで流れています。

――――――――――――――――――――――――――――

足元でジャックが伸びをし、

曲は終わりに近づいていました。

ドアの外では、人の流れが途切れず、

駅から帰る人や、買い物帰りの人が行き交っています。

音が止まり、静かになりました。

少し息をつき、明かりを消しました。

――――――――――――――――――――――――――――

・・・・診察室はもう暗く、

外の灯りだけが壁をうすく照らしています。

・・・もう人通りはありません。

おやすみなさい
2025-11-05 01:00:00

FIP治療最終日に気づいたこと

カテゴリ : 感染症・予防


治療完走の日に


今回ご紹介する猫ちゃんは、シェルター出身で、引き取られてまもなくFIPを発症した子です。

そこから84日間の治療を続け、無事に最終日を迎えることができました。最終日の再診では検査値も安定しており、一区切りを確認できた日でした。

しかしその診察で、両前肢外側および下腹部から大腿内側にかけての外傷性脱毛を見つけました。飼い主さんも気づいておらず、私自身もこれまでの診察で記録していませんでした。




振り返ってみると──


初診時は転院で、すでに一通りの検査が終わっていたため当院ではほぼ問診のみ。

ただ中間日には腹部エコーも実施しています。それにもかかわらず、その時点で脱毛があったのかどうか、私自身の記憶があいまいです。

これは獣医師としての反省点だと感じています。


外傷性脱毛とストレス


外傷性脱毛は、掻痒や痛みを伴う皮膚疾患で見られることもありますが、多くはストレスが背景にある行動(舐め壊しや毛抜き)です。

猫はストレスを感じると、自分の体をなめることで気持ちを落ち着けようとします。

これは正常なセルフケア行動ですが、強いストレスが続くと過剰になり、毛が抜けてしまうほど激しく舐めることがあります。



その結果、今回のようになめやすい箇所に脱毛が生じることがあります。

今回のケースでは「いつからあったのか」が分からないため、2つの可能性を考える必要があります。

もしシェルター時代からあったとすれば、そこで強いストレスを受けており、それがFIP発症の誘因になった可能性も考えられます。

もし引き取られてから始まったものであれば、現在の生活環境にストレス因子があるかもしれません。

実際、引き取り先には元気なお子さんがおり、猫ちゃんを驚かせてしまう場面もあるようでした。

であるなら、これからの生活環境を一度見直していただく必要があります。

なぜなら、ストレスはFIPを再発させてしまうかもしれないからです。


まとめ


FIP治療のゴールは「投薬をやめられること」ではありません。

“再発なく穏やかに暮らせること”こそが本当のゴールです。

今回、最終日の再診で外傷性脱毛に気づいたことは、治療を完走したからこそ見えてきた新しい課題でした。

ストレスとFIPの関係を踏まえ、これからの生活環境を整えていくことが、この子の未来を守るために欠かせないと感じています。
2025-10-29 05:00:00

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