
ある日「2,3週間前から体調が悪い。お腹が出てきており昨日から食欲がない」との事で10歳の黒猫さんが連れてこられました。
診断について
画像(エコー検査のために毛を刈っています)ではお伝えしにくいのですが、一目でお腹が張っている様子が分かりエコー検査で腹水が確認されました。
※画面の上で波打って見えているのが腸、右下に一部見えているのが腎臓、途中に画面の左側から肝臓が見えてきます。その間で見えているのが腹水ですが健康な子ではこのように多量には認められません。
↑エコーの静止画です。楕円形に見えているのが腎臓でその前後(画面左側が前側です)で黒く見えている箇所が腹水です。
お腹に針を刺してみますと黄色い液体が吸引されました。

このような黄色い液体が吸引された場合はFIP(猫伝染性腹膜炎)が強く疑われます。
またFIPは多頭飼育の猫ちゃんで発症リスクが高まることが知られているのですがこの子も他6匹と同居していました。この事もFIPを強く疑がわせる根拠となりました。
少し専門的になりますがFIPは今回のように①胸やお腹の中にお水が溜まるタイプと②お水は溜まらずに腎臓など内臓にお肉のかたまりができるタイプと③眼の症状や神経の症状を伴うタイプに分けて考えます。
このタイプ分けは抗ウイルス薬の内服量を決める際に重要になって来ます。ただ最近は①と②は併発することもあるので分けて考えないこともあるようです。
FIPとの確定診断を得るために、エコー以外の検査も実施し以下の結果を得ました。
↓血液のTP、ALB

↓腹水のTP、ALB

↓AGP検査、猫コロナウイルス抗体検査、猫コロナウイルス遺伝子検査

詳しい解説は今回省略させていただきますが以上の結果からFIPと確定診断しました。
治療について
今回のケースでは前々日まで食べていたとのことでしたので内服薬の使用が可能と判断し当院で治療を引き受けさせていただきました。
食欲が完全に廃絶し何日間か経過しているような子の場合は抗ウイルス薬の注射を利用できる病院で治療を受けていただいた方が良いかと思います。
AGP検査や抗体検査、遺伝子検査の結果が出そろい確定診断を得るまでは2,3日かかります。
それまでの期間はFIPと仮診断しステロイドの内服薬を処方しました。FIPは全身性の炎症性疾患です。ステロイドには炎症を抑える作用が期待できるからです。
この黒猫さんはステロイド内服開始の翌日には食べ始めました。
確定診断ののち抗ウイルス薬の内服を開始しました。
内服開始およそ3週間後のエコー動画です、上の動画と同じ箇所ですが腹水がほとんど消失しています。
↑エコーの静止画です。腎臓の前後で見えていた黒い箇所が消失し腹水が減少したことが分かります。
現在、お腹の張りも無くなり元気・食欲も旺盛です。