
ここ10年ほど、臨床の現場で「キジや黒が多いな(純血種は別として)」と感じることが増えました。
以前は、茶トラ、三毛、さび、ぶち、白、さば など、もっと色とりどりの毛色が混ざっていた印象があります。
しかし最近は、毛色に“偏り”があるように思います。
もちろん、これは私自身の感覚にすぎない部分もあります。
ただ、長年の診療経験から
・TNRの普及
・完全室内飼育の増加
・外猫の減少
・毛色ごとの「生き残りやすさ」の違い
・遺伝的に“出やすい毛色/出にくい毛色”が存在すること
こうした複数の要因が、現在の毛色分布に影響しているのではないかと感じています。
補足:TNRとは?
TNRは
Trap(捕獲)
Neuter(不妊手術)
Return(元の場所へ戻す)
の頭文字をとった外猫管理の方法です。
繁殖を抑えることで地域の猫数を安定させる取り組みで、外猫の繁殖機会が減ることは毛色バリエーションの変化にも大きく関わってきます。
茶トラ(オレンジ系)が減った理由(捕まりやすさ+そもそも遺伝的に出にくい)
茶トラ(オレンジ系)は人懐っこく、おっとりした子が多い印象があります。
慎重なタイプに比べると、TNRで捕まりやすかった可能性があります。
加えて、今回詳しくは触れませんが、オレンジ系はキジや黒と比べると遺伝的に“やや出にくい毛色”です。
(性染色体の影響や、発現に必要な条件が限定されるため。)
つまり、
「捕まりやすかった」×「そもそも出にくい」
この2つの理由により、外でオレンジ遺伝子を持つ系統が後退しやすかったと考えています。
結果として、オレンジ遺伝子を一部に含む三毛・さび系も相対的に減少しやすい状況が生まれたのだと思います。
キジ猫が多い理由(祖先色+遺伝的バリエーション流入の減少)
キジ柄(ブラウンタビー)は、草地や土に紛れやすい合理的な保護色です。
猫の祖先であるリビアヤマネコも基本はこの毛色でした。
さらに近年は、室内飼育化によって多様な毛色の外猫への遺伝的流入が減り、結果として“イエネコ本来の毛色(キジ)に収束しやすい”という現象が起きているのではないかと感じています。
また、キジ柄の猫は慎重で距離を保つタイプも多く、茶トラのように捕まりやすい子と比べると、TNRの対象になりにくい個体も多かったのではとの印象があります。
これらの理由が重なり、現代の外猫ではキジ柄が最も残りやすい毛色になっていると考えています。
黒猫が多い理由(遺伝的に出やすい+TNRの対象になりにくい)
黒猫は外で目立ちにくく、慎重なタイプも多いため、茶トラに比べてTNRで保護されにくかった可能性があります。
さらに、黒はオレンジより遺伝的に“出やすい毛色”という特徴があります。
黒の遺伝は優性で、発現条件も比較的シンプルです。
「出やすい」×「みつかりにくい(私見)」
この組み合わせによって、黒猫の系統が外に残りやすく、結果として黒×キジの2強状態が形成されたのだと感じています。
白黒ぶち(タキシード)が減った理由
白斑(S遺伝子)は多様な模様を生みますが、近年は
・外猫の多様性そのものが減った
・TNRで繁殖機会が限定
・室内飼育化で遺伝子の流入が減った
これらが重なり、ぶち模様を作る“組み合わせ”が発生しにくくなった可能性があります。
サバ(ブルー)が減った理由
サバ柄(ブルー)は黒を薄める希釈遺伝子(d)により生まれます。
もともと希少なうえ、外猫の多様性が減った現代では、希釈遺伝子同士の出会い自体が少なくなり、生まれにくい毛色になっています。
そして今、病院で見えている“毛色の風景”
こうしたさまざまな要因が積み重なり、現代の外猫・地域猫の毛色はゆっくりと収束の方向に進んでいるように感じます。
・遺伝的に出やすい黒・キジが自然に残りやすい
・オレンジ・三毛・さびのような出にくく、また捕まりやすい毛色が後退
・室内飼育化により、外の世界に“新しい毛色”の遺伝子が流れ込みにくい
これらが同時に起こることで、病院で診る猫たちは「黒」と「キジ」を中心とした、やや単調な毛色の風景へと変化してきたように見えます。
人が意図してそうしたわけではなく、環境変化と遺伝学的条件が数十年をかけて作り上げた、ある意味“自然な変遷”なのかもしれません。
最後に
これはあくまでも、私が長年の臨床の中で感じた個人的な考察です。
学術的に不完全な部分がある可能性をご了承のうえ、「そういう見方もあるのかもしれない」程度に読んでいただければ幸いです。