※右の甲状腺
ある日「おとついからひどい下痢をしている。1年前から急に体重が落ちてきて
軟便気味だった。」との事で老齢の猫ちゃんが連れてこられました。
さらにお話を聞きますと「食欲はあり食べたら直ぐにうんちをする。お水をよく飲みおしっこをたくさんする」との事でした。
聴診で心雑音が聞こえましたので「あれあの病気かな」とも思いましたが「体重が落ちてきた」「お水をよく飲みおしっこをたくさんする」とのお話から先ずは「糖尿病かな」と考えました。
そこで血液検査を行ったところ血糖値に異常はなく糖尿病ではなかったのですがTT4という成分が異常に高くなっていました。

TT4は甲状腺から出ているホルモンのことですが基準値が0.8-4.7のところ20.0以上とその数値が跳ね上がっていました。
これにより甲状腺から異常にホルモンが供給される甲状腺機能亢進症という病気であることがわかりました。「あれあの病気かな」と思ったほうでした。
体を車に例えると甲状腺ホルモンはガソリンのようなものです。
アクセルを踏み過ぎてガソリンがエンジンに必要以上に供給されると車が暴走するように甲状腺ホルモンがたくさん供給されると体も暴走をはじめあちこちで悲鳴をあげるようになります。
今回何故そのような症状につながるのかの詳しい説明は省きますが甲状腺ホルモンがたくさん分泌されると飼い主様目線でわかる猫ちゃんの変化としては
①異常な食欲の割には食べても食べても痩せてくる
②毛並みが悪くなる
③呼吸が速くなる
④お水をたくさん飲みたくさんおしっこをする
⑤下痢や軟便になる
⑥なんだか怒りっぽい性格になる
⑦夜鳴き、かすれ声
などです。
飼い主様のおしゃっていた「下痢をする」「軟便気味だった」「体重がおちてきた」「よく飲みたくさんおしっこをする」という症状がすべて含まれています。
また体の中では心臓や肝臓にも負担がかかったりしています。
心臓の負担は先ずは心雑音を聴診したり血液検査でpro-BNPという成分を測ったりして確認します。今回 pro-BNPは簡易検査キットで高値という判定でした。
肝臓の負担は血液検査でGPT(ALT)という成分を測れば確認できます。

GPTの基準値はおおよそ80くらいまでなのですが326と跳ね上がっており肝臓にも負担がかかっていることがわかります。
それで以上の事が確認できてから再度触診をおこない甲状腺のサイズをチェックしてみました。
甲状腺は首の正面で気管の左右にあるのですが右側のサイズが異常に大きくなっていました。
大きくなった分たくさんホルモンを出すようになります。
正確なサイズを調べようとエコー検査をしたかったのですが腫れた甲状腺を触り過ぎてしまい呼吸が速くなってしまったので検査は後日にさせて頂く事にしました。
腫れた甲状腺を必要以上に触り過ぎるとその刺激で甲状腺ホルモンが分泌され甲状腺機能亢進症の症状が激しく表れてしまう事があるのです。
治療は手術で大きくなった甲状腺をとりのぞく方法とお薬でホルモンの働きをブロックする方法があります。
オーナー様は猫ちゃんが高齢である事からお薬での治療を希望されました。
お薬開始およそ2週間後

TT4は11.1、GPTは286と数値が下がり体重の増加も認められました。
下痢もおさまったのですがこちらはフードの変更による効果が大きかったようです。
同日に初診時にできなかったエコー検査を実施ししました。最初の画像がそうですがこれは右の甲状腺です。
点線2の長さは甲状腺の厚みを測定しているのですが15.2mmでした。猫の甲状腺の厚みは文献にもよりますが通常2㎜くらいまでと言われていますのでとても大きいことが分かります。
ちなみに左の甲状腺の厚みは
※左の甲状腺
4.9㎜でした。
さらに4週間後TT4は

1.1と基準値内におさまっていました。体重もさらに回復していました。
下痢がおさまり体重も増えてそれは良いことなのですが甲状腺が大きいのは良性の腫大(腺腫)なのかそれとも悪性の癌(腺癌)によるものなのかが気になるところです。
その判断は組織検査といって甲状腺を一部採取し病理診断医に判定をお願いします。
癌であればて取りのぞいてあげたほうが良いのですがオーナー様は手術までは望まれていません。
ですのであえて白黒をつける必要はないのかもしれないですが細胞診検査と言って組織検査よりももう少し負担のかからない検査をさせて頂きました。(詳しい説明は省きますが甲状腺癌の診断には細胞診ではなく組織検査が必要です)
結果は甲状腺腫瘍(腺腫も腺癌も両方含む言葉です)を疑うとの事でやはり良悪の判断はつきませんでした。
ただし診断医の先生に伺いますと細胞の採取のされ方や甲状腺のそのものサイズから腺癌を疑った方が良いのではとの事でした。
