ある日の診察でのご相談
ある日、診察の中で、こんなご相談を受けました。「先生ご自身がこれまで飼ってきた猫同士で、
急に仲が悪くなったことって、ありましたか?」
とても率直で、でも多くの飼い主さんが
一度は心の中で思ったことのある質問だと思います。
そのとき飼い主さんが見せてくださったのが、
スマートフォンに保存されていた一本の動画でした。
冒頭の動画は、そのとき実際に持参されたものです。
そこには、Rちゃんが同居猫のNちゃんに向かって、
はっきりと「シャー」と威嚇している様子が映っていました。
実はとてもタイムリーな相談でした
実はこのご相談を受けたのは、私自身がちょうど「ねこ内科チャンネル」で最近公開した、
同居猫の同種間攻撃についての動画を制作している最中でした。
頭の中では、
なぜ、昨日まで一緒にいられた猫同士の関係が、
ある日を境に崩れてしまうのか
飼い主さんは、どこで一番戸惑うのか
そんなことを整理していた、まさにそのタイミング。
だからこそ、この相談は私にとって
とてもタイムリーで、臨床と発信が重なった出来事でした。
今回の出来事を整理すると
普段は、同じ部屋で一緒に過ごすことができていた2頭。ところがある日、
Nちゃんが、Rちゃんのケージ周辺から
ドタバタと音を立てて落ちる出来事がありました。
大きな音、振動、
そして「自分の安心できる場所」への突然の侵入。
これに強く反応したRちゃんが、
威嚇し、追いかけ、いわゆる
「ヴーシャー」「猫パンチ」の状態になりました。
この反応自体は、異常なものではありません。
強い驚きや恐怖に対する、防衛反応として
十分に説明がつく行動です。
実は前から見えていたサイン
重要なのは、今回の出来事が完全に突然起きたものではなかった、という点です。
普段の生活の中で、
Nちゃんが、Rちゃんを追いかけ回す場面が時々ある
一見、遊びの延長のようにも見える
しかし、Nちゃんの背中の毛が逆立つことがある
Rちゃん自身は、どこか迷惑そうにしている
こうした様子が見られていたそうです。
猫同士では、
「遊び」と「ストレス行動」の境界線が
とても曖昧なことがあります。
Rちゃんの体質との関係
Rちゃんは、いわゆる特発性膀胱炎体質で、療法食(ユリナリーSO+CLT)を続けています。
特発性膀胱炎の猫は、
環境の変化や緊張に弱いことがあり
落ち着けない状態が続くと体調に影響が出やすい
という特徴があります。
日常的に感じていた
「追われる緊張感」
「安心して休めない感覚」
そうしたものが、
目に見えない形で積み重なっていた可能性は
十分に考えられます。
Nちゃんの身体的な背景
Nちゃんは、子猫の頃の事故により、2本しか足がありません。
そのため、
動き方が独特になりやすい
距離の詰め方が急に見えることがある
本人に悪気はなくても、圧を感じさせやすい
という面があります。
Rちゃんから見ると、
予測しづらく、少し怖い存在になっていた
可能性も否定できません。
今回の出来事の本質
今回のトラブルは、日常的に少しずつたまっていたストレス
それを抱えながら過ごしていた状態
そこに起きた大きな音と侵入
それらが重なり、
限界を超えた瞬間に表に出たものと考えられます。
性格が急に変わったわけでも、
急に仲が悪くなったわけでもありません。
飼い主さんの対応について
今回、飼い主さんがとった対応は、すぐに隔離してクールダウンさせた
無理に仲直りさせようとしなかった
おもちゃで注意を逸らした
どれも、とても適切な対応でした。
特に、
叱らなかったこと
興奮を別の行動に置き換えたこと
これは、状況を悪化させないために
とても重要なポイントです。
最後に
同居猫のトラブルは、ある日突然起きたように見えて、
実は少しずつ積み重なっていることがほとんどです。
今回のケースは、
原因がはっきりしている
経過は回復方向にある
飼い主さんの観察と対応が的確
という点で、決して悲観的な状況ではありません。
猫同士の関係は、
白か黒かで決まるものではなく、
その時々で調整しながら続いていくものです。
同じようなことで悩んでいる方がいれば、
「うちだけじゃない」と
少し肩の力を抜いてもらえたらと思います。













