先週の続きです。
上のエコー動画は先週ご紹介したものと同じものです。心臓の壁(筋肉)が著しく肥大しており肥大型心筋症になっています。
詳しい説明は省きますが左心室という場所に異常な構造物も認められ、それは将来「拘束型心筋症」と呼ばれるタイプの心臓病の症状が出てくる可能性を示しています。
下にこれも先々週に紹介した猫ちゃんの正常な心臓のエコー動画をもう一度掲載しておきます。心臓の壁の幅を上のエコー動画と比べてみてください。
それでは心筋症が見つかった場合治療はどうしていくのでしょうか?
先ずは心臓から大動脈に流れていく血液の速度に注目します。
心筋症で特に今回の猫ちゃんのような肥大型の場合は病期が進むとこの場所の血液速度が速くなることがあります。
それは猫ちゃんにとっては良くない事なので速度を調整するためのお薬を使用します。
下の画像はこの場所の血液の速度を測定している場面です。
この場所の血液の速度は2.548m/s(254.8cm/s)となっておりこれは正常速度の2倍強の値です。
治療は3.5m/sあたりを超えてきたら必要と言われています。
次に心臓の左心房という場所の大きさに注目し心筋症のステージング(病期の進行度を確かめる事)をします。
下の画像の場面で左心房のサイズを測定しています。
少し過小評価してしまっているのですが左心房のサイズは8.8㎜と正常範囲内です。
このサイズが17㎜を超えてきたら対応が必要と言われています。
心筋症のステージはステージA、B₁、B₂、C、Dと分かれます。
A 心筋症の素因があるが、心筋症に罹患していない
※アメショー、スコティッシュ、ノルウェージャン、ブリティッシュ
・ショートヘアー、ペルシャ(ヒマラヤン)、ベンガル、メインクーン
、ラグドールさんなどは遺伝的に心筋症になる素因があります。
B₁ 心筋症に罹患しているが症状はなく、左心房サイズが正常から軽度拡大
B₂ 心筋症に罹患しているが症状はない、ただし左心房サイズが中等度から
重度に拡大している。
C 現在あるいは過去に心筋症に伴う臨床症状を発現している
D 難治性
治療は一般的にステージB₂から必要と言われています。
今回の猫ちゃんは左心房サイズが正常でしたのでステージB₁と診断しました。
それでは今回の猫ちゃんには何も治療を行わなかったのでしょうか?
猫ちゃんの心筋症は循環器の専門の先生に聞かれると言葉足らずで怒られるかもしれませんが「本当の心筋症」と「何かの病気により引き起こされる心筋症」に分けることができると言えます。
肥大型心筋症は高血圧症や甲状腺機能亢進症に伴い引き起こされることが知られています。
今回この猫ちゃんは甲状腺に異常はなかったのですが、最高血圧が174mmHg
と治療が必要とされる160mmHgを上回っており高血圧症が認められましたので、それが心筋症の引き金になったのではと考えています。
現在、血圧を下げるお薬を飲んでいただいております。
二次的な心筋症の場合は病名にフェノタイプとつけて区別をするようです。
ですので今回の猫ちゃんは「高血圧症に伴う肥大型心筋症フェノタイプ」との診断名にしました。