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僧帽弁の「収縮期前方運動(SAM)」

カテゴリ : 循環器

 
猫ちゃんの心臓病でよくみられるのが心臓の壁(筋肉)が分厚くなることで様々な障害がおこってくる肥大型心筋症と呼ばれる病気です。

動画は肥大型心筋症の猫ちゃんのエコー検査時のものです。

この猫ちゃんはお薬を2種類飲んで頂いているのですが肥大型心筋症だからと言って直ぐにお薬が必要というわけではありません。

程度が軽い場合は経過観察となります。

それでお薬を開始した方が良いかどうかを判断するにはエコー検査が有用なのですがいくつか注目する点があります。

「左室流出路障害」という障害が激しくおこっていないかも注目点の一つです。

左室流出路とは簡単に言いますと心臓から大動脈への血液の通路です。

肥大型心筋症で心臓の壁(筋肉)が分厚くなると壁が厚くなった分通路がせまくなります。

ここは想像していただきたいのですが同じ時間で同じ量の血液が通常よりせまいところを通過しようとするとその速度すなわち血流の速度は速くなりますよね。

この血流の速度はエコー検査機のある機能で調べることができます。

通常は秒速1m前後くらいのスピードが秒速3.5m以上(専門医の先生によって多少意見が違います)になってきたら治療が必要と言われています。

速度が上がった分通路が狭くなった心臓の壁(心筋)が分厚くなったと考えます。

この猫ちゃんは5.4mでした。



それから視覚的にわかる変化として「左室流出路障害」があると今回ブログタイトルにあげている僧帽弁の「収縮期前方運動(SAM)」という現象がみられるようになってきます。

僧帽弁とは左側の心臓にある弁で心臓が収縮する時は閉じています。

SAMとは心臓が収縮をした時に僧帽弁が速くなった血流のために心臓の左右を分ける壁側に引っ張られる現象をいいます。

この現象の程度で左室流出路障害の重症度が視覚的にとらえることが可能です。

下の画像は上のエコー動画から心臓が収縮を開始した直後を静止画にしたものです。

SAMが見られます。


分かりやすく図示してみます。

斜線は心臓の左右を分ける壁です。分厚くなっています。

ピンク色の箇所は閉じた僧帽弁です。

青い上向きの矢印は閉じた僧帽弁が壁側に引っ張られている様子を示しています。

エコー検査画像では上に移動していますが前方と表現します。上が猫ちゃんの頭側になるからです。



比較の為に健康な猫ちゃんの同じ瞬間の心臓をとらえた画像を載せておきます。



黄色い矢印は心臓から大動脈への血流をあらわしています。

ピンクの箇所は閉じた僧帽弁ですが上を流れる血流速度が正常ですので
そちら側にに引っ張らるというような現象も起こっていません。
2024-10-09 07:00:00

一過性の心筋肥大

カテゴリ : 循環器

※緑の線は心電図です。

糖尿病で来院した猫ちゃんに著しい徐脈(心拍が遅くなること)が認められました。

その状況を確かめるため心臓のエコー検査を実施したところ、心臓の壁(筋肉)が分厚く、また左心房と呼ばれる場所が大きくなっていました。

上の動画はその時のものです。

下の2つの画像はその動画のある瞬間の静止画で心臓の壁(筋肉)の厚さと左心房のサイズを測っています。



少し専門的になりますが点線1では心室中隔と呼ばれる心臓の左と右を分ける壁(筋肉)の厚さを点線2では心臓の左側の壁の厚さをそれぞれ測っています

点線1は6.2mm 点線2は8.3mm とあり、ここが6.0㎜以上になってきたら心筋肥大があると考えます。



この場面では左心房と呼ばれるか場所のサイズを点線のところで測っています。

17.3㎜とありますが、17.0㎜を超えてきたら心不全をおこすリスクが高まると言われています。

ちなみにこのエコー動画の場面では(少し角度の違いはあるのですが)心臓が下の絵のように見えています。


※①心室中隔 ②左心室壁

また上の動画の右上にHR124とあります。これは心拍数が1分間に124回という事を示しています。

正常な猫ちゃんの心拍数は100~160と言われていますので一見正常なように思えますが、病院につれてこられた猫ちゃんや検査中の猫ちゃんは常にドキドキしていますので124は徐脈気味と考えます。

実際の聴診では80前後でした。

糖尿病はおしっこがたくさん出るため脱水をおこすのですが脱水が激しいと(詳しい説明は省きますが)1次的に心筋が肥大して見えることがあります。

今回も脱水による心筋の肥大が考えられました。

脱水改善のためには血管点滴を行えばよいのですが左心房と言う場所が大きくなっていますので慎重に点滴をしなければなりません。

これも詳し説明は省きますが「左心房の拡大」は「心不全をおこしていますよ」あるいは「慎重にしないと心不全をおこしますよ」というサインです。

この猫ちゃんの糖尿病の治療には血管点滴は必要不可欠です。

そこで点滴のスピードをものすごくゆっくりにし同時に循環不全を改善するお薬も持続点滴しました。

通常のスピードでそのまま点滴をすると心臓がパンクしてしまう可能性が高いからです。

ただ脱水の改善がはかどらなかったので途中から点滴のスピードを様子を見ながらあげていきました。

 

治療4日目のエコー動画です。

HR210とあり徐脈が改善しています、心臓の拍動のスピードが1地番上の動画と比べて速いですよね。



左心房サイズが12.3mm と正常に戻っています。




 

治療12日目のエコー動画です。(心電図にはつないでいません)



点線1が5.2㎜ 点線2が5.6㎜と心臓の壁の厚さが正常の6.0mm 以内に改善しています。

このことから初診時の心筋の肥大は一過性のものと考えられました。
2024-05-29 07:00:00

高血圧症に伴う肥大型心筋症フェノタイプ

カテゴリ : 循環器


先週の続きです。

上のエコー動画は先週ご紹介したものと同じものです。心臓の壁(筋肉)が著しく肥大しており肥大型心筋症になっています。

詳しい説明は省きますが左心室という場所に異常な構造物も認められ、それは将来「拘束型心筋症」と呼ばれるタイプの心臓病の症状が出てくる可能性を示しています。

下にこれも先々週に紹介した猫ちゃんの正常な心臓のエコー動画をもう一度掲載しておきます。心臓の壁の幅を上のエコー動画と比べてみてください。



それでは心筋症が見つかった場合治療はどうしていくのでしょうか?

先ずは心臓から大動脈に流れていく血液の速度に注目します。

心筋症で特に今回の猫ちゃんのような肥大型の場合は病期が進むとこの場所の血液速度が速くなることがあります。

それは猫ちゃんにとっては良くない事なので速度を調整するためのお薬を使用します。

下の画像はこの場所の血液の速度を測定している場面です。



この場所の血液の速度は2.548m/s(254.8cm/s)となっておりこれは正常速度の2倍強の値です。

治療は3.5m/sあたりを超えてきたら必要と言われています。

次に心臓の左心房という場所の大きさに注目し心筋症のステージング(病期の進行度を確かめる事)をします。

下の画像の場面で左心房のサイズを測定しています。



少し過小評価してしまっているのですが左心房のサイズは8.8㎜と正常範囲内です。

このサイズが17㎜を超えてきたら対応が必要と言われています。

心筋症のステージはステージA、B₁、B₂、C、Dと分かれます。

A  心筋症の素因があるが、心筋症に罹患していない
  ※アメショー、スコティッシュ、ノルウェージャン、ブリティッシュ
   ・ショートヘアー、ペルシャ(ヒマラヤン)、ベンガル、メインクーン
    、ラグドールさんなどは遺伝的に心筋症になる素因があります。

B₁ 心筋症に罹患しているが症状はなく、左心房サイズが正常から軽度拡大

B₂ 心筋症に罹患しているが症状はない、ただし左心房サイズが中等度から
  重度に拡大している。

C 現在あるいは過去に心筋症に伴う臨床症状を発現している

D 難治性

治療は一般的にステージB₂から必要と言われています。

今回の猫ちゃんは左心房サイズが正常でしたのでステージB₁と診断しました。

それでは今回の猫ちゃんには何も治療を行わなかったのでしょうか?

猫ちゃんの心筋症は循環器の専門の先生に聞かれると言葉足らずで怒られるかもしれませんが「本当の心筋症」と「何かの病気により引き起こされる心筋症」に分けることができると言えます。

肥大型心筋症は高血圧症や甲状腺機能亢進症に伴い引き起こされることが知られています。

今回この猫ちゃんは甲状腺に異常はなかったのですが、最高血圧が174mmHg
と治療が必要とされる160mmHgを上回っており高血圧症が認められましたので、それが心筋症の引き金になったのではと考えています。

現在、血圧を下げるお薬を飲んでいただいております。

二次的な心筋症の場合は病名にフェノタイプとつけて区別をするようです。

ですので今回の猫ちゃんは「高血圧症に伴う肥大型心筋症フェノタイプ」との診断名にしました。
2024-03-06 07:00:00

NT-proBNP

カテゴリ : 循環器


当院では全ての年齢層のワンちゃんや猫ちゃんに対して年1~2回の健康診断をお勧めしています。

健康診断は問診、身体検査、血液検査、尿検査、レントゲン検査、エコー検査などを状況に応じ組み合わせて行っています。

それらの結果により専門医を紹介させていただく事もあります。

上の画像はある猫ちゃんの血液検査の結果の一部ですが、最近猫ちゃんのオーナー様にはオプションとしてNT-proBNPという項目の検査も提案しています。

NT-proBNPは心臓病の検出に役立ちます。

ワンちゃんでは心臓病が始まるとたいてい心臓に雑音が生じますのでそれを聴診器でとらえることで心臓病を検出することが可能です。

またある程度心臓病が進行している状態ですと心臓の形に変化が生じていますのでそれをレントゲン検査でとらえることも比較的容易です。

が猫ちゃんの心臓病は心臓がかなり悪い状態になっていてもワンちゃんのように心臓に雑音が生じていなかったり、レントゲン検査でも正常な心臓となんら変わりない形をしている事も多いです。

猫ちゃんの心臓病を確かめる為にはエコー検査で心臓内部の状況、血液の流れを直接見ることが1番なのですが、その前段階の検査としてNT-proBNP検査を実施しています。

猫ちゃんの心臓病では心臓の壁(筋肉)に問題が生じることで発症する心筋症が多く見られます。

心筋症があると心臓の壁に負担がかかります。

血液中のNT-proBNPは心臓の壁に負担がかかると高くなってきます。

この検査結果の猫ちゃんは心雑音は無いのですが、NT-proBNPの値が1431.8pmol/Lと基準値の100pmol/Lを大幅に上回っており心筋症の存在が疑われました。

そこでエコー検査により心臓の状態を見てみました。




下の画像はエコー動画のある瞬間の静止画です。




点線1は心臓の右側と左側を分ける壁(筋肉)の、点線2は心臓の左側の壁の幅をそれぞれ測定しています。 点線1は9.8㎜、点線2は8.6㎜となっています。これらの壁の幅が6㎜を超えてきたら肥大型心筋症とよばれるタイプの心臓病を疑います。

今回聴診による心音は正常だったのでNT-proBNP値の数値が高いことがエコー検査をオーナー様に勧める説得材料となり、それが肥大型心筋症を診断するきっかけとなりました。

エコー検査は猫ちゃんにとっては多少のストレスを伴いますが痛みはほぼありませんので健康診断時に心エコー検査を組む合わせることも考えてみてください。

それでもエコー検査に抵抗のある方は、まず血液検査時にNT-proBNPを検査項目に加えて見られてはどうでしょうか?


※NT-proBNPは万能の検査ではなく、この値が正常にもかかわらず心筋症 
 になっている猫ちゃんもいます。

次週に続きます
2024-02-28 07:00:00

猫の拘束型心筋症

カテゴリ : 循環器


先月の初め頃「今朝いつものようにご飯を欲しがらない。こたつからだして歩かせてみたら2歩くらいで倒れた」との事で高齢の猫ちゃんが連れてこられました。

来院時は高齢猫ちゃんなりのいつもの様子に見受けられましたが、異常に速い心拍と低体温を認めました。

下の動画は倒れた直後の様子を動画撮影されたものでオーナー様のご厚意で掲載させていただきました。




この様に失神してしまう病気はいくつか考えられるのですが心臓病もその一つです。

心臓が悪いと全身に血液がきちんと供給されず脳への血液の供給が途絶えた場合は気を失って倒れてしまいます。

そこでレントゲン撮影をしてみますと心臓が大きくなっており(青いラインで囲っています)それにより心臓病の存在が示されました。

 

猫ちゃんの正常な心臓の大きさはだいたいピンクのラインで囲ったくらいになります。



猫ちゃんの心臓病は心臓の壁(筋肉)が肥大しておこる肥大型心筋症とよばれるタイプのものが多いです。

今回もその病気を疑いそれを確かめるためにエコー検査を実施しました。

結果、心臓の壁(筋肉)の肥大は認められずそのかわりに心臓の壁が硬くなることで心臓の働きが損なわれる拘束型心筋症とよばれるタイプの心筋症が疑われました。

上に挙げたエコー動画がその時のものです。

今回は詳しい説明は省きますが心臓の壁が硬くなり心臓の拡張・収縮が充分に出来ていない様子がとらえられています。

別の日のエコー動画の方がより分かりやすので挙げておきます。



心拍動中の何回かに1回くらいしか拡張できていない様子やこれも詳しい説明は省きますが拘束型心筋症の特徴である左右両方の心房拡大も見られます。

ただいずれの動画も皆様には何のことだかとなると思いますので比較の為に正常な猫ちゃんの同じ場所のエコー動画も挙げてお行きます。



どうでしょうか上二つの動画の心臓と比べてやわらかく規則正しく心臓が拡張・収縮している様子がうかがえると思います。

治療には当初3種類の内服薬を使用していたのですが、もう1種類追加しようと考えその選択が妥当なものであるかどうか確信が持てませんでしたので二次病院を受診していただきました。

それにより私が考えていたものとは別の内服薬が追加となり現在経過を見守っています。
2024-02-21 07:00:00

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猫のフィラリア症ムービー(リンク先に動画があります)
https://www.nekomamo.com/parasite/filaria/movie/

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