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高血圧症を伴う肥大型心筋症フェノタイプと診断した猫ちゃんのその後

カテゴリ : 循環器
【追記とお詫び】心筋症の「フェノタイプ」という表現について

本ブログ公開時は「フェノタイプ」が原因の病気にかかると理解し記事を書いていました。

しかし、「フェノタイプ」という言葉は 原因ではなく、“心筋の形態(肥大型・拘束型など)” にかかるものです。


したがって、より正確には

  • 「肥大型心筋症フェノタイプ(高血圧症に伴う)」
  • 「末端肥大症に関連した肥大型心筋症フェノタイプ」
などと表現するのが適切です。

誤解を招く表現をしてしまい、読んでくださった方には申し訳ありません。

今後はより正確な情報をお伝えできるよう努めます。

※ブログ記事は公開時のままです。




昨年2月28日と3月6日のブログで話題にしました「高血圧症に伴う肥大型心筋症フェノタイプ」と診断しました猫ちゃんのその後の経過です。

この猫ちゃんは健康診断時の血液検査でNT-proBNPと呼ばれる項目の数値が異常にに跳ね上がっていました。

基準値が100 未満のところ1431.8と実に上限の14倍の値です。

NT-proBNP値の上昇は心臓に負担がかかっていることを教えてくれています。

そこで心臓のエコー検査を実施したところ心臓の壁(筋肉)が分厚くなる(心筋肥大)ことで様々な障害をおこすようになる肥大型心筋症フェノタイプであることが判明しました。



心臓が一番拡張した瞬間に動画を止めて心臓の壁の幅を測ります。

点線1は心臓の左右を隔てる壁で7.5mm

点線2は心臓の左側の壁で7.9mm でした。

この幅が6.0㎜以上になってくると肥大型心筋症ではと考えていきます。


ところでブログタイトルにもありますように肥大型心筋症の後ろにフェノタイプという言葉がついているのは何故でしょうか。

フェノタイプは日本語では表現型と言います。

エコー検査で心筋肥大を確認した時に「これは肥大型心筋症」と言ってしまうとそれは後述する真の心筋症を示していることになってしまいます。

循環器の専門医さんに聞かれると叱られるかもしれませんがおおまかに言いますと 心筋症は「何か原因となる病気があってそのために二次的に引き起こされる心筋症」と「先行する病気が他になく心臓そのものに問題がある(心筋に関連した遺伝子の変異など)と思われる真の心筋症」の二つに大別することができます。

それでエコー検査で心筋の肥大を確認した時にはとりあえず肥大型心筋症フェノタイプと表現しておきます。

(ちなみに心臓の壁が硬くなっている時は拘束型心筋症フェノタイプ、心臓の壁が薄っぺらい時は拡張型心筋症フェノタイプ、右心系に目立って問題がありそうな時は不整脈原性右室心筋症フェノタイプ、どれにも当てはまりそうでない時には非特異型心筋症フェノタイプと表現します。)

その後の検査で先行する原因がわかったら「〇〇症に伴う肥大型心筋」としたいところですがフェノタイプは付けたままで「〇〇症に伴う肥大型心筋症フェノタイプ」と表現します

猫ちゃんの場合「先行する何か原因となるトラブル」としては高血圧症、脱水、腫瘍、末端肥大症、甲状腺機能亢進症などが考えられます。

例えば甲状腺機能亢進症が先行しその為に発症した肥大型心筋症なら「甲状腺機能亢進症に伴う肥大型心筋症フェノタイプ」というふうに言い表します。

この猫ちゃんは収縮期血圧が174で高血圧症と判明しましたので「高血圧症に伴う肥大型心筋症フェノタイプ」と診断しました。

高血圧のガイドライン

140未満   正常
140-159  前高血圧
160-179  高血圧
180以上   重度の高血圧  

治療は血圧を下げるお薬の内服になります。 

およそ半年後の健診時の血圧は150で前高血圧まで改善していました。

NT-proBNP値も394.8(一番上の画像参照)まで下がっていました。

同時にエコー検査を行いました。



心臓が一番拡張した瞬間に動画を止めて壁の厚さを測定しました

点線1 心臓の左右を分ける壁の厚さ 7.5mm→6.9mm

点線2  心臓の左側の壁の厚さ 7.9mm→7.3mm 

と※改善傾向が認められました。

※二次的な心筋症の場合、先行する原因を治療することで分厚くなった壁厚の改善がみられる事があります。
 
2025-02-19 06:00:00

徐脈性不整脈 :第3度房室ブロック

カテゴリ : 循環器



ある猫ちゃんの保護施設から健康診断の依頼がありその一環として心エコー検査を実施しました。

心音の聴診の時から感じていたのですが徐脈という心拍数が減少する状態が確認されました。

画面の右上の方にHR95とありますがこれは現在の心拍数が1分間に95回ですよという事です。

猫ちゃんの正常な心拍数は人に比べて速く文献にもよりますが120以上それこそ病院に来て緊張でドキドキしていると200前後ということも普通で検査中の猫ちゃんならいつもよりさらに速くなります。

ですので検査中の心拍数95はかなり遅いと考えてください。

それで原因を考えたのですがエコー画面の下に出ている心電図を見て「房室ブロック」ではと考えました。

房室ブロックについては後で簡単に説明をさせて頂きますが何種類かあるのですが自信をもって「こういう種類の房室ブロックですよ」と診断できませんでしたので循環器科のある二次病院を受診していただきました。

結果は「第3度の房室ブロック」との診断でした。

ここからは第3度の房室ブロックの説明です。


上はエコー動画のある瞬間の静止画です。

RA:右心房 この動画では大動脈に隠れて見えていませんので白い線で描いています
RV:右心室
LA:左心房
LV:左心室
①:洞房結節 いわゆるペースメーカーで右心房にあります。
②:房室結節

ぺースメーカーで生じた電気信号が緑の矢印を伝わって心房→心室の順で心臓が収縮します。血液は心房から心室へ流れていきます。

①が興奮し電気信号が生じると心房が収縮します。その心房が収縮する時に心電図上ではP波と呼ばれる波形が記録されます。ちなみに①の興奮は心電図でとらえることができません。

①で生じた電気信号は心房を収縮させるとともに②を刺激します。

刺激を受けた②も興奮し心室に電気信号をおくり心室を収縮させます。心室の収縮は心電図上ではQRS波と呼ばれる波形で記録されます。

それでこの猫ちゃんの心電図を見た時に「P波とQRS波の間隔がやけに広いなぁ、①で生じた電気信号が②から先にきちんと送られていない、心房と心室の間がブロックされているんじゃないのかなぁ」と感じました。通常はP波の直ぐ後にQRS波がきます。

第3度の房室ブロックとは上の図のピンクの×印のところで完全に電気的な流れが遮断されている状態の房室ブロックの事で完全房室ブロックとも言います。

でも電気信号が遮断されているのに遅いながらも心室も収縮し心電図でも心室の収縮を示すQRS波が記録されていますよねこれは何故でしょうか。

「心房から心室に電気信号が伝わらないからもう心室は収縮しなくていいや」では体に血液が循環しなくなり大変なことになってしまいます。

そこで体は不思議なもので心室の細胞の一部が自らペースメーカーを務めるようになり血液の循環を保とうとします。

上の画像では③の場所(この場所は僕が適当に決めたもので本当はどこかわかりません)としています。

この心電図でとらえられたQRS波は①の電気信号が伝わって記録されたものではなく③がペースメーカーとなり記録されたものとなります。

治療ですがこの猫ちゃんは今のところ体調に変化はないので経過観察となり何らかの心臓病の症状が出てきた時にそれに対応していくことになりました。
2024-11-13 03:00:00

僧帽弁の「収縮期前方運動(SAM)」

カテゴリ : 循環器

 
猫ちゃんの心臓病でよくみられるのが心臓の壁(筋肉)が分厚くなることで様々な障害がおこってくる肥大型心筋症と呼ばれる病気です。

動画は肥大型心筋症の猫ちゃんのエコー検査時のものです。

この猫ちゃんはお薬を2種類飲んで頂いているのですが肥大型心筋症だからと言って直ぐにお薬が必要というわけではありません。

程度が軽い場合は経過観察となります。

それでお薬を開始した方が良いかどうかを判断するにはエコー検査が有用なのですがいくつか注目する点があります。

「左室流出路障害」という障害が激しくおこっていないかも注目点の一つです。

左室流出路とは簡単に言いますと心臓から大動脈への血液の通路です。

肥大型心筋症で心臓の壁(筋肉)が分厚くなると壁が厚くなった分通路がせまくなります。

ここは想像していただきたいのですが同じ時間で同じ量の血液が通常よりせまいところを通過しようとするとその速度すなわち血流の速度は速くなりますよね。

この血流の速度はエコー検査機のある機能で調べることができます。

通常は秒速1m前後くらいのスピードが秒速3.5m以上(専門医の先生によって多少意見が違います)になってきたら治療が必要と言われています。

速度が上がった分通路が狭くなった心臓の壁(心筋)が分厚くなったと考えます。

この猫ちゃんは5.4mでした。



それから視覚的にわかる変化として「左室流出路障害」があると今回ブログタイトルにあげている僧帽弁の「収縮期前方運動(SAM)」という現象がみられるようになってきます。

僧帽弁とは左側の心臓にある弁で心臓が収縮する時は閉じています。

SAMとは心臓が収縮をした時に僧帽弁が速くなった血流のために心臓の左右を分ける壁側に引っ張られる現象をいいます。

この現象の程度で左室流出路障害の重症度が視覚的にとらえることが可能です。

下の画像は上のエコー動画から心臓が収縮を開始した直後を静止画にしたものです。

SAMが見られます。


分かりやすく図示してみます。

斜線は心臓の左右を分ける壁です。分厚くなっています。

ピンク色の箇所は閉じた僧帽弁です。

青い上向きの矢印は閉じた僧帽弁が壁側に引っ張られている様子を示しています。

エコー検査画像では上に移動していますが前方と表現します。上が猫ちゃんの頭側になるからです。



比較の為に健康な猫ちゃんの同じ瞬間の心臓をとらえた画像を載せておきます。



黄色い矢印は心臓から大動脈への血流をあらわしています。

ピンクの箇所は閉じた僧帽弁ですが上を流れる血流速度が正常ですので
そちら側にに引っ張らるというような現象も起こっていません。
2024-10-09 07:00:00

一過性の心筋肥大

カテゴリ : 循環器

※緑の線は心電図です。

糖尿病で来院した猫ちゃんに著しい徐脈(心拍が遅くなること)が認められました。

その状況を確かめるため心臓のエコー検査を実施したところ、心臓の壁(筋肉)が分厚く、また左心房と呼ばれる場所が大きくなっていました。

上の動画はその時のものです。

下の2つの画像はその動画のある瞬間の静止画で心臓の壁(筋肉)の厚さと左心房のサイズを測っています。



少し専門的になりますが点線1では心室中隔と呼ばれる心臓の左と右を分ける壁(筋肉)の厚さを点線2では心臓の左側の壁の厚さをそれぞれ測っています

点線1は6.2mm 点線2は8.3mm とあり、ここが6.0㎜以上になってきたら心筋肥大があると考えます。



この場面では左心房と呼ばれるか場所のサイズを点線のところで測っています。

17.3㎜とありますが、17.0㎜を超えてきたら心不全をおこすリスクが高まると言われています。

ちなみにこのエコー動画の場面では(少し角度の違いはあるのですが)心臓が下の絵のように見えています。


※①心室中隔 ②左心室壁

また上の動画の右上にHR124とあります。これは心拍数が1分間に124回という事を示しています。

正常な猫ちゃんの心拍数は100~160と言われていますので一見正常なように思えますが、病院につれてこられた猫ちゃんや検査中の猫ちゃんは常にドキドキしていますので124は徐脈気味と考えます。

実際の聴診では80前後でした。

糖尿病はおしっこがたくさん出るため脱水をおこすのですが脱水が激しいと(詳しい説明は省きますが)1次的に心筋が肥大して見えることがあります。

今回も脱水による心筋の肥大が考えられました。

脱水改善のためには血管点滴を行えばよいのですが左心房と言う場所が大きくなっていますので慎重に点滴をしなければなりません。

これも詳し説明は省きますが「左心房の拡大」は「心不全をおこしていますよ」あるいは「慎重にしないと心不全をおこしますよ」というサインです。

この猫ちゃんの糖尿病の治療には血管点滴は必要不可欠です。

そこで点滴のスピードをものすごくゆっくりにし同時に循環不全を改善するお薬も持続点滴しました。

通常のスピードでそのまま点滴をすると心臓がパンクしてしまう可能性が高いからです。

ただ脱水の改善がはかどらなかったので途中から点滴のスピードを様子を見ながらあげていきました。

 

治療4日目のエコー動画です。

HR210とあり徐脈が改善しています、心臓の拍動のスピードが1地番上の動画と比べて速いですよね。



左心房サイズが12.3mm と正常に戻っています。




 

治療12日目のエコー動画です。(心電図にはつないでいません)



点線1が5.2㎜ 点線2が5.6㎜と心臓の壁の厚さが正常の6.0mm 以内に改善しています。

このことから初診時の心筋の肥大は一過性のものと考えられました。
2024-05-29 07:00:00

高血圧症に伴う肥大型心筋症フェノタイプ

カテゴリ : 循環器
【追記とお詫び】心筋症の「フェノタイプ」という表現について

本ブログ公開時は「フェノタイプ」が原因の病気にかかると理解し記事を書いていました。

しかし、「フェノタイプ」という言葉は 原因ではなく、“心筋の形態(肥大型・拘束型など)” にかかるものです。

したがって、より正確には
  • 「肥大型心筋症フェノタイプ(高血圧症に伴う)」
  • 「末端肥大症に関連した肥大型心筋症フェノタイプ」
などと表現するのが適切です。

誤解を招く表現をしてしまい、読んでくださった方には申し訳ありません。

今後はより正確な情報をお伝えできるよう努めます。

※ブログ記事は公開時のままです。



先週の続きです。

上のエコー動画は先週ご紹介したものと同じものです。心臓の壁(筋肉)が著しく肥大しており肥大型心筋症になっています。

詳しい説明は省きますが左心室という場所に異常な構造物も認められ、それは将来「拘束型心筋症」と呼ばれるタイプの心臓病の症状が出てくる可能性を示しています。

下にこれも先々週に紹介した猫ちゃんの正常な心臓のエコー動画をもう一度掲載しておきます。心臓の壁の幅を上のエコー動画と比べてみてください。



それでは心筋症が見つかった場合治療はどうしていくのでしょうか?

先ずは心臓から大動脈に流れていく血液の速度に注目します。

心筋症で特に今回の猫ちゃんのような肥大型の場合は病期が進むとこの場所の血液速度が速くなることがあります。

それは猫ちゃんにとっては良くない事なので速度を調整するためのお薬を使用します。

下の画像はこの場所の血液の速度を測定している場面です。



この場所の血液の速度は2.548m/s(254.8cm/s)となっておりこれは正常速度の2倍強の値です。

治療は3.5m/sあたりを超えてきたら必要と言われています。

次に心臓の左心房という場所の大きさに注目し心筋症のステージング(病期の進行度を確かめる事)をします。

下の画像の場面で左心房のサイズを測定しています。



少し過小評価してしまっているのですが左心房のサイズは8.8㎜と正常範囲内です。

このサイズが17㎜を超えてきたら対応が必要と言われています。

心筋症のステージはステージA、B₁、B₂、C、Dと分かれます。

A  心筋症の素因があるが、心筋症に罹患していない
  ※アメショー、スコティッシュ、ノルウェージャン、ブリティッシュ
   ・ショートヘアー、ペルシャ(ヒマラヤン)、ベンガル、メインクーン
    、ラグドールさんなどは遺伝的に心筋症になる素因があります。

B₁ 心筋症に罹患しているが症状はなく、左心房サイズが正常から軽度拡大

B₂ 心筋症に罹患しているが症状はない、ただし左心房サイズが中等度から
  重度に拡大している。

C 現在あるいは過去に心筋症に伴う臨床症状を発現している

D 難治性

治療は一般的にステージB₂から必要と言われています。

今回の猫ちゃんは左心房サイズが正常でしたのでステージB₁と診断しました。

それでは今回の猫ちゃんには何も治療を行わなかったのでしょうか?

猫ちゃんの心筋症は循環器の専門の先生に聞かれると言葉足らずで怒られるかもしれませんが「本当の心筋症」と「何かの病気により引き起こされる心筋症」に分けることができると言えます。

肥大型心筋症は高血圧症や甲状腺機能亢進症に伴い引き起こされることが知られています。

今回この猫ちゃんは甲状腺に異常はなかったのですが、最高血圧が174mmHg
と治療が必要とされる160mmHgを上回っており高血圧症が認められましたので、それが心筋症の引き金になったのではと考えています。

現在、血圧を下げるお薬を飲んでいただいております。

二次的な心筋症の場合は病名にフェノタイプとつけて区別をするようです。

ですので今回の猫ちゃんは「高血圧症に伴う肥大型心筋症フェノタイプ」との診断名にしました。
2024-03-06 07:00:00

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