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進行したRCMの猫ちゃんと、「呼吸を楽にすること」の難しさ

カテゴリ : 循環器


以前から、

・ループ利尿薬
・ジルチアゼム
・抗血栓薬
・甲状腺機能亢進症

のお薬を使用しながら、拘束型心筋症(RCM)の管理を続けていた猫ちゃんです。

今回、
「呼吸が速い」
「食欲が落ちている」
「状態が悪そう」
とのことで来院されました。


初診時の様子


診察では、呼吸数の増加が認められ、
全体的にしんどそうな様子がみられました。

レントゲン検査では、胸水貯留が認められました。



また、心エコー検査では、
以前49%程度あったFS(収縮機能)が、
今回は32%まで低下していました。




RCMは、主に“拡張障害”が中心となる心筋症ですが、
病状が進行すると、循環全体がかなり厳しくなってくることがあります。


当日の判断


胸水抜去によって、
呼吸が楽になる可能性は考えられました。

ただ一方で、
かなり病状が進行していたため、
保定や処置そのものが負担になる可能性も考えていました。

また、
「できるだけ穏やかに過ごさせてあげたい」
という飼い主さんのお気持ちも感じていました。

そのため当日は、

・酸素室の準備
・内科治療の見直し

を行い、経過を見る方針となりました。

この時点で、

・胸水貯留
・食欲低下
・収縮機能低下

が認められていました。

また、すでにループ利尿薬による長期管理を行っており、
これ以上単純に利尿を強めるだけでは、
循環への影響も心配される状況でした。

それまで使用していたジルチアゼムは、
拡張障害や心拍数管理を意識して使用していましたが、
今回のように循環不全の進行が疑われる状況では、
低拍出を悪化させる可能性も考えられます。

そのため今回は、
ジルチアゼムを中止し、
循環を少しでも支える目的でピモベンダンを追加しました。

猫ちゃんでのピモベンダン使用については、
慎重な意見もあります。

病態によっては適応を慎重に考える必要があり、
すべての猫ちゃんに積極的に使用される薬ではありません。

ただ今回は、

・長期の利尿剤管理を行っていたこと
・胸水貯留が認められたこと
・食欲低下があったこと
・収縮機能低下が認められたこと

から、
一次病院として行える治療選択肢の一つとして使用しました。


その後

2日後、飼い主さんも病状について調べられ、
胸水抜去について改めてご相談いただきました。

2日後の来院直後の様子


胸水抜去を行ったところ、
呼吸はやや楽になった様子がみられました。

胸水を抜いた後の呼吸の様子、酸素室に入っています。


抜いた胸水


胸水を抜いた後のレントゲン画像


当然ですが胸水による呼吸苦が、
実際にかなり関与していたことがうかがわれました。

ただ、残念ながら数日後に亡くなられました。


今回のケースを振り返って

今振り返ると、
胸水抜去について、
こちらからもう少し積極的に提案してもよかったのかもしれません。

胸水抜去は、
呼吸を楽にする可能性がある処置です。

一方で、
進行した心筋症では、
保定や処置そのものが負担になることもあります。

また、こちらから処置を勧めることで、
もし結果が思わしくなかった場合に、
「やらなければよかったのでは」
「負担をかけてしまったのでは」
と、飼い主さんがご自身を責めてしまうのではないか。

あるいは、
「楽になる可能性がある」と説明を受けたことで、
本当は怖さや迷いがあっても、
“やらない選択”をしづらくなってしまうのではないか。

そんなことを、当時はずっと考えていました。

ただ、今回の経験から、
こうした場面では、
獣医師側が勝手に気持ちを読み取って判断するのではなく、
「呼吸を楽にできる可能性があること」
「ただし処置にも負担やリスクがあること」
を、もう少し明確にお伝えしたうえで、
一緒に考えることが大切だったと感じています。

猫の心筋症、特に進行したRCMでは、
「治す」というより、
「少しでも呼吸を楽に」
「少しでも穏やかに過ごせる時間を」
考えながら向き合う場面が多い病気です。
2026-05-27 02:00:00

瞳の違和感から見つかった猫の高血圧、その後の経過

カテゴリ : 循環器



 以前(3月18日のブログ)、爪切りをきっかけに高血圧が見つかった猫ちゃんについてお話ししました。

https://ibaraki-harimau.com/blog/bct/1768727

「念のためもう一度測りましょう」とお伝えし、3日後に再来院していただきました。

その結果は240mmHg台。



やはり一時的な上昇ではなく、持続的な高血圧と判断しました。

「降圧治療の開始」

そこで、降圧剤としてアムロジピンを10日分処方しました。

10日後に再度血圧を測定すると、130mmHg台まで低下。



正常範囲ではありましたが、下がり方としてはやや強い印象もあり、過度な降圧を避ける観点から一度減量することにしました。

「減量後の変化」

1週間後に再チェックすると、今度は170mmHg台。



再び上昇してきたため、元の量に戻す判断をしました。

「現在のコントロール状況」

さらに約2週間後に再測定すると、140mmHg台。



安定してコントロールできていると考え、現在はこの用量で継続しています。

「血圧は“ちょうどいい”を探す治療」

猫の高血圧は、下げればいいというものではなく、下げすぎてもよいとは限りません。

そのため、測定を繰り返しながら、その子にとっての適切な血圧を探っていくことが大切になります。

今回のケースでは、240 → 130 → 170 → 140と推移しながら、少しずつ落ち着くポイントを見つけていきました。

「まとめ」

最初のきっかけは、やはり瞳の違和感でした。

猫の高血圧は気づかれにくい病気ですが、目や腎臓などに影響を及ぼすことがあります。

小さな変化でも、気になることがあればご相談ください。
2026-05-06 05:00:00

猫の高血圧 爪切りで気づいた小さなサイン

カテゴリ : 循環器


ある日、久しぶりに来院した猫ちゃんがいました。

特別な診察ではなく、爪切りだけです。

爪を切りながら、ふと顔を見たときに少し気になることがありました。

瞳が、やけに大きく開いているように見えたのです。

猫は暗い場所では瞳孔が大きくなりますが、診察室はそれほど暗くありません。

それでも瞳が開いたままのように見えました。

「最近、何か変わったことはありませんか?」 そう飼い主さんに聞くと、 「最近、ものに当たることがあるんです」 という話が出ました。

もしかすると、網膜の異常があるのかもしれない。 そう思いました。


猫も高血圧が目に出ることがある


猫も高血圧が起きると、 網膜に出血や剥離が起こることがあります。

その結果

・瞳が開いたままになる
・見えにくくなる
・物に当たる

といった変化が出ることがあります。

そこで飼い主さんに、 「念のため血圧だけ測ってみましょうか」 と提案しました。


血圧を測ってみると

猫の血圧は、一度の測定だけでは判断できないことが多いので、 何回か測って平均を見ます。



しかし、この猫では 190〜200mmHg台 という数値が出ました。

これは明らかに高い血圧です。


猫の高血圧の背景にある病気

猫の高血圧は

・慢性腎臓病
・甲状腺機能亢進症

といった病気に伴って起こることも多いです。

その話をすると、飼い主さんから 「そういえば、水をよく飲んでおしっこも多いです」 という話が出ました。

この飼い主さんは、別の猫で腎不全を経験している方でした。


まず甲状腺ホルモンをチェック

高血圧の治療では降圧剤を使うこともありますが、 もし甲状腺機能亢進症が原因なら、 まずその治療を優先することがあります。

そこで 「甲状腺ホルモンだけ調べてみませんか」 と提案しました。

検査結果は 正常値ではあるものの、グレーゾーン にも近い結果でした。



すぐに治療が必要な値ではありませんが、 今後の経過は注意して見ていく必要があります。


血圧はもう一度確認

猫の血圧は ・緊張 ・環境 ・測定条件 によっても変わることがあります。

そのため 「数日後にもう一度血圧を測ってみましょう。

それでも高いようなら、降圧剤を使った方がよいと思います」 とお伝えしました。


腎臓のチェックは尿比重から


本来であれば血液検査で腎臓の状態を確認することも多いですが、 費用のこともあります。

そこで今回は まず尿比重で腎臓の働きをチェックしてみましょう と提案しました。

尿比重は、比較的負担の少ない検査ですが、 腎臓の状態を知る手がかりになります。


爪切りから見つかる病気もある


今回のきっかけは、ただの爪切りでした。

ですが

・瞳の変化
・見えにくそうな様子
・血圧の上昇

といったことから、体の中の問題が見えてくることがあります。

猫では 高血圧は意外と気づかれにくい病気です。

しかし

・目
・脳
・腎臓
・心臓

などに影響することがあります。

小さな変化でも、 気になることがあれば相談していただければと思います。
2026-03-18 05:00:00

アムロジピン単独では不十分だった猫の高血圧症例 ― テルミサルタン併用で安定した一例

カテゴリ : 循環器

     ※入院翌朝の血圧で来院時直ぐのものではありません。

猫が、突然の嘔吐と元気消失を主訴に来院しました。

診察時に血圧を測定したところ、200mmHgを超えていました。

この猫には、もともと血圧を下げるお薬をだしていました。

入院とし、まずはこれまでと同じ内容(アムロジピン)で投薬を行い、経過を観察しました。

翌朝(2月3日8時)の血圧も202mmHg(最初の画像)で、大きな変化はありませんでした。

この時点で、今までの治療だけでは血圧が下がりきっていないと判断し、作用の仕組みが異なるテルミサルタンを追加しました。

アムロジピン2.5mg錠を1/4錠で1日2回、テルミサルタン20mg錠を1/4錠1日1回としました。


同日17時半の血圧は182mmHgでした。



翌日(2月4日朝)の血圧は185mmHgでした。

まだ十分な低下とは言えなかったため、アムロジピンを1/2錠1日2回に増量し、テルミサルタンは同量で継続しました。



同日16時前の血圧は156mmHgまで低下しました。



翌日(2月5日朝9時半)の血圧は150mmHgでした。

この時点では、アムロジピンの増量で血圧が安定しているのであれば、テルミサルタンは不要かもしれないと考え、一度中止しました。



同日夜の血圧は174mmHgに再上昇しました。



翌朝(2月6日9時前)の血圧も174mmHgでした。

この経過から、アムロジピン単独では血圧を維持できていない可能性が高いと判断し、テルミサルタンを再開しました。



同日夕方の血圧は146mmHgでした。

確認後退院としました。

この推移から、この猫ではアムロジピン単独では不十分で、テルミサルタンの併用が血圧の安定に大きく関与していると判断しました。

また今回詳しい説明は省略させていただきますが、初診時の検査で、胸水の貯留や左心房の拡張など、一般的には心臓の病気を示すことが多い所見が認められました。




そして血液検査では心臓に負担がかかっていることを示す指標であるproBNPの高値も確認されていました。



ただし今回の経過をみる限り、心臓そのものの病変というより、血圧が高い状態が続いたことによる影響が、これらの所見として現れていたと考えています。

血圧が安定するにつれて、嘔吐や元気消失といった初診時にみられた症状は改善し、退院時には認められなくなっていました。

あわせて、初診時に認められていた上記の画像所見についても、退院時には改善傾向が確認されました。




2026-02-11 06:00:00

尿閉と高カリウム血症:猫を襲う静かな心臓の危機

カテゴリ : 循環器


二日前からおしっこが出ていない、食欲がなく吐いている――そんな主訴で雄の猫ちゃんが来院しました。

診察室に入ってきたときにはぐったりと横たわっており、固く緊張感のある膀胱が触診されたことから尿閉が強く疑われました。

血液検査では尿毒症に加え、カリウムが8.4mEq/L(基準値はおよそ3.7〜4.6)と非常に高い値を示していました。

これは非常に危険な状態です。

カリウムと心臓

というのはカリウムは心臓の電気を整える役割を持つ大切なミネラルなのですが、増えすぎると電気の流れが乱れて心臓のリズムが崩れ、心停止に至ってしまうのです。

今回の猫ちゃんも、心拍数は130台と健康な猫にしては遅く、すでに高カリウム血症による影響が心臓に現れていました。

心電図の変化

心電図を装着すると、まず目に入ったのは尖って高くなったT波でした。



心電図にはいくつかの波がありますが、その中でもT波はカリウムの影響を受けやすく、血液中のカリウムが高いと大きく形が変わります。

心電図のT波が高いのは危険なサインです。


治療の流れ

治療はまず酸素を吸わせ、静脈路を確保し、心電図で心臓の動きを監視するところから始まりました。

尿閉の根本治療は尿道にカテーテルを通すことですが、この子は重度の高カリウム血症で心臓が不安定だったため、鎮静をかけて行うのは命に関わるリスクがありました。

そこで、まずは心臓を守る治療を優先しました。

最初に投与したのは グルカゴン です。

グルカゴンは心臓の細胞に働きかけてカルシウムの出入りを増やし、心臓の収縮力を後押しします。

カルシウムは心臓が力強く動くために欠かせない物質であり、この働きで拍動を支えました。

次に 膀胱穿刺 を行い、尿を抜いて腎臓への圧力を下げ、余分なカリウムが体に戻るのを防ぎました。

この二つの処置によって、治療開始から30分ほどで心電図に変化が現れました。

T波はまだ完全に正常とは言えないものの、明らかに低下し改善がはっきり分かる状態になったのです。





ここで次の段階として GI療法 を開始しました。

手順は、まず20%ブドウ糖をボーラス投与し、その直後にインスリンを投与、その後は5%ブドウ糖を持続点滴しました。

インスリンは血液中のカリウムを細胞内へ移動させ、ブドウ糖は低血糖を防ぐために一緒に投与します。

GI開始から1時間半後の血液検査では、カリウムは7.4mEq/Lに下がり、心拍数も160台に回復。

この時点ではT波が逆に小さくなりすぎて、はっきり判別できないほどでした。






このとき、根本治療であるカテーテル通過を試みました。

本来は鎮静をかけて行う処置ですが、依然として鎮静のリスクは大きいと判断し、「強い抵抗を示したらすぐに中止する」という前提で鎮静なしで慎重に行いました。

すると思いのほかスムーズに通過し、排尿を確保することができました。

さらに30分後には心拍数は200台に上がり、T波は陰性化(波の山が逆転)しました。

猫では陰性T波も正常範囲に見られるため、この時点で心臓の急性危機は一旦脱したと判断しました。






まとめ

尿閉は、単に「おしっこが出ない」だけの病気ではなく、尿毒症や高カリウム血症によって命を脅かす危険があります。

今回のケースでは、心電図の波形が治療に応じて変化していく様子を目の当たりにしました。

残念ながらこの子は別の要因により最終的に助けることはできなかったのですが、少なくとも心臓の危機は一度は脱することができました。

こうした経験を通じて、尿閉の怖さを少しでも多くの方に知っていただきたいと思います。
2025-09-24 04:00:00

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