ある日「4日前から食欲がおち、2日前から全く食べず、本日嘔吐しだしました。1週間くらい前までお水をたくさん飲みおしっこの量も多かった」との主訴で猫ちゃんが来院されました。
「お水をたくさん飲みおしっこの量が多い」状態を多飲多尿といいますが、このような猫ちゃんを目にした時には獣医さんはまず腎臓病や糖尿病がないかを気にします。
この猫ちゃんは血液検査で血糖値が600mg/dl以上(普通は100前後です)、尿検査で糖分が出ましたので糖尿病と診断しました。
※GLU = 血糖値
糖尿病は一般的には初期の頃は非常にお腹がすきますので病気なのに普通かそれ以上に食べており健康なように見えますが、同時におしっこをたくさんするようにもなります。
そのような状態が続くとやがて脱水をおこし元気・食欲がなくなってしまい治療が必要となります。
治療はインスリンを投与し血糖値を下げていきます。もう少し正確に言いますとインスリンを投与し体が血液中の糖分(エネルギー)を利用できるようにしていきます。
インスリンは糖分を体に取り込む手助けをしています。糖尿病とはインスリンが不足し体が糖分を取り込めない病気だと言えます。
糖尿病では体が糖分を利用できないので血液中が糖分でいっぱいいっぱいになり、おしっこにも糖分が出てきます。
糖分が利用できないので食べたものが身につかずに痩せてもきます。
詳しい理由は省略しますが血糖値が高い状態はのどが渇きます、またおしっこの量が増え水分がたくさん失われることもあわせてたくさん水を飲むようになります。
上の動画の猫ちゃんは血糖値を下げるために点滴で血管から持続的にインスリンを投与しています。
同時にエネルギーとなる糖分も点滴で流しています。
「糖尿病で血糖が高いのにさらに糖分を補充するの?」と思われるかもしれません。
もちろん治療開始時は生理食塩水の点滴のみで糖分は補充しないのですが、インスリンの投与をしばらくし続けると血糖値が下がって来ます、そのまま続けると今度は血糖値が下がりすぎてしまい利用できる糖分がなくなる低血糖という危険な状態になります。
「じゃあインスリンを切ればいいじゃないか」となりますがインスリンを切るとまた糖分を利用できずに血糖値が上がってきますので切ることができないのです。
そこで糖分も補充しつつインスリンを投与するということを行うのです。
これは食欲がもどり自身で糖分が補充できるようになるまで続けます。
食欲が出てきたらインスリンを皮下注射による投与に切り替え退院していただきます。
上の動画は治療3日目フードを食べだした瞬間を撮影したものです。
この後、糖分の点滴を終了しインスリンを皮下投与に切り替え5日目に退院していただきました。
ところで動画の猫ちゃんの背中をよく見ていただくと毛が刈られていますよね。
動画では分かりにくいのですが血糖値センサーを張り付けています。
下のリーダーを近づけるとその時点の血糖値を知ることができます。
また血糖の変化を折れ線グラフで図示する事も可能です。
これは非常に便利な検査機器です。
以前は血糖の変化を追っていくのにその都度ワンちゃんや猫ちゃんに我慢をしてもらい何回も採血しなければなりませんでしたが、これを利用することでその苦痛を無くしてあげることができるようになりました。
また退院していただいた直後はインスリンの量がまだまだその子にあった量では無いこともあり、血糖値が全然下がらなかったり逆に下がり過ぎてしまって体調が安定しないこともあります。
そのような時は再度入院をお願いし血糖値の変化を追わなければならなかったのですが、この検査機器が登場してからはセンサーを付けたまま退院していただいておりますので自宅で血糖の変化を追ってもらえるようになりました。
下の写真のように自宅での測定結果の画像を送っていただき「インスリンの量を増やしましょうか、減らしましょうか」と電話やメールでインスリン量調整のやりとりができるようになりました。
このセンサーは人間用ですので肌質の違うワンちゃんや猫ちゃんにそのまま使用すると以前は直ぐに取れてしまうこともあったのですが生体ボンドを利用することでその問題も無くなりました。