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食べているのに痩せていく猫

カテゴリ : 消化器


来院時の様子:食べているのに元気がない


ある日、高齢の猫ちゃんが来院しました。

ここ1週間ほど「食べてはいるが食欲が落ちている」「元気がない」という状態が続いているとのことでした。

すでに始まっていた体の変化

これまでの経過として、2か月ほど前から他院で食欲増進剤(エルーラ)を処方され、継続して使用していたそうです。エルーラは食欲を改善するだけでなく、筋肉量の維持にも関わるお薬です。

つまり、食欲低下や体重減少、筋肉量の低下といった変化がすでに見られていたために処方されていた可能性が考えられます。

しかし実際には、その後も体重は徐々に減少していたとのことでした。

明らかな体重減少と筋肉量の低下

診察時の体重は2.0kgで、元気な頃は3kg以上あったとのことから、明らかな体重減少が認められました。また、体を触ったときの筋肉の量もかなり少なくなっており、見た目以上に体の消耗が進んでいる印象を受けました。

腹部触診で感じた違和感

さらに腹部の触診では、お腹の奥にしこりのような違和感があり、表面に凹凸があるような、不整な印象のある触れ方でした。

そこで血液検査と超音波検査を行いました。

血液検査が示した慢性的な消耗

血液検査では、貧血(ヘマトクリット22.6%)に加え、総タンパク3.8 g/dL、アルブミン1.4 g/dLと、いずれも大きく低下していました。



アルブミンは体の栄養状態や消耗の程度を反映する重要な値ですが、ここまで低下している場合、栄養がうまく吸収できない、あるいは体から失われているような病態が、ある程度の期間をかけて進行していた可能性が考えられます。

超音波検査で見えたターゲットサイン

続いて行った超音波検査では、腸の一部に同心円状に見える「ターゲットサイン」と呼ばれる像が確認されました(最初の画像)。

この所見は腸重積を強く疑うサインではありますが、触診の印象やこれまでの経過、食欲は少ないながらもあること、嘔吐がそれほど激しくないことなどをあわせて考えると、今回の状態は腸重積とは少し違うように感じられました。




背景にあると考えた病態

また、血液検査の結果からも、急に起こる病気というよりも、時間をかけて進行してきた病気が背景にある可能性が高いと判断しました。

これらの所見から、炎症性腸疾患(IBD)や小細胞性リンパ腫などの慢性的な腸の病気の可能性について、飼い主様に説明しました。

治療方針とその後の経過

確定診断のためには二次病院での精密検査(CT/MRIや生検)が必要となることもお伝えしましたが、ご相談の結果、まずは内科的な治療で様子を見ることとなりました。

治療としては、プレドニゾロンを開始し、消化管への負担を考慮して消化器サポート食を処方しました。反応を見ながら、必要に応じて治療の追加を検討していく予定でした。

しかし、その2日後に亡くなったとのご連絡をいただきました。

「食べている=大丈夫」ではない

今回の症例で改めて感じたのは、「食べているから大丈夫」というわけではないということです。

食欲増進剤によって食べる量が保たれ、筋肉量の維持をサポートしていたとしても、その裏で進行している病気そのものが改善しているとは限りません。

見逃してはいけないサイン

体重の減少や筋肉量の低下、そしてアルブミンの低下といった変化は、体の中で静かに進行している異常のサインであることがあります。

一見すると「少し元気がない」「少し食欲が落ちている」といった変化でも、その裏で大きな病気が進んでいることがあります。

早期に気づくことの大切さ

そのようなサインを見逃さず、早い段階で体の状態を確認することの大切さを、改めて考えさせられた症例でした。
2026-04-01 04:00:00

2日に1回でも普通?実は“ためていた猫”のお話

カテゴリ : 消化器


ある日、健康診断で来院した猫ちゃんがいました。

特に症状はありません。
元気もあり、食欲も問題なし。

飼い主さんも
「とくに気になることはないです」
とのことでした。

健診の一環として、腹部のレントゲン検査を行いました。
すると、少し気になる所見がありました。

レントゲンには、
上行結腸から下行結腸、そして直腸まで、
びっしりと便が詰まっている様子が写っていました。

「便はどれくらいのペースで出ていますか?」
そうお聞きすると、
「2日に1回くらいですかね」
というお返事でした。

猫の排便は、
1日1回が目安とされることが多いですが、
2日に1回でも体質として問題ない子もいます。

この時点で、必ずしも治療が必要な状態ではありません。
ただ、将来的に巨大結腸症へ移行してしまう可能性も考えられたため、
今のうちに腸の動きを整えておいた方がよいと判断しました。

それは、
便がやや出にくい状態にある可能性があることです。

便をため込む状態が続くと、
徐々に腸が伸びてしまい、
やがては
「出したくても出せない状態」
になってしまうことがあります。
いわゆる、巨大結腸症です。



そこで今回は、治療というよりも
「少し流れをよくしてみましょう」
という意味で、
可溶性食物繊維を含むフードを
試していただくことにしました。

その後の診察で、
「1日1回、もりもり出るようになりました」
「今までの便は固めだったんですが、それが普通だと思っていました」
とおっしゃっていました。

とても印象的な言葉でした。

猫は「しゃべらない」ので、
飼い主さんも私たちも、
「それが普通」だと思って見過ごしてしまうことがあります。

今回のケースは、
病気ではありませんでした。
でも、完全に正常とも言い切れない状態でした。

ほんの少し整えてあげるだけで、
猫ちゃんにとっては
ずっと楽な状態になることがあります。

「うちの子、2日に1回だから大丈夫」
そう思っている場合でも、

・便が硬くないか
・しっかり量が出ているか
・いきんでいないか

一度、少しだけ気にしてみてください。

もしかするとその子も、
「出にくい状態になっているだけ」かもしれません。
2026-03-25 05:00:00

猫の高血圧 爪切りで気づいた小さなサイン

カテゴリ : 循環器


ある日、久しぶりに来院した猫ちゃんがいました。

特別な診察ではなく、爪切りだけです。

爪を切りながら、ふと顔を見たときに少し気になることがありました。

瞳が、やけに大きく開いているように見えたのです。

猫は暗い場所では瞳孔が大きくなりますが、診察室はそれほど暗くありません。

それでも瞳が開いたままのように見えました。

「最近、何か変わったことはありませんか?」 そう飼い主さんに聞くと、 「最近、ものに当たることがあるんです」 という話が出ました。

もしかすると、網膜の異常があるのかもしれない。 そう思いました。


猫も高血圧が目に出ることがある


猫も高血圧が起きると、 網膜に出血や剥離が起こることがあります。

その結果

・瞳が開いたままになる
・見えにくくなる
・物に当たる

といった変化が出ることがあります。

そこで飼い主さんに、 「念のため血圧だけ測ってみましょうか」 と提案しました。


血圧を測ってみると

猫の血圧は、一度の測定だけでは判断できないことが多いので、 何回か測って平均を見ます。



しかし、この猫では 190〜200mmHg台 という数値が出ました。

これは明らかに高い血圧です。


猫の高血圧の背景にある病気

猫の高血圧は

・慢性腎臓病
・甲状腺機能亢進症

といった病気に伴って起こることも多いです。

その話をすると、飼い主さんから 「そういえば、水をよく飲んでおしっこも多いです」 という話が出ました。

この飼い主さんは、別の猫で腎不全を経験している方でした。


まず甲状腺ホルモンをチェック

高血圧の治療では降圧剤を使うこともありますが、 もし甲状腺機能亢進症が原因なら、 まずその治療を優先することがあります。

そこで 「甲状腺ホルモンだけ調べてみませんか」 と提案しました。

検査結果は 正常値ではあるものの、グレーゾーン にも近い結果でした。



すぐに治療が必要な値ではありませんが、 今後の経過は注意して見ていく必要があります。


血圧はもう一度確認

猫の血圧は ・緊張 ・環境 ・測定条件 によっても変わることがあります。

そのため 「数日後にもう一度血圧を測ってみましょう。

それでも高いようなら、降圧剤を使った方がよいと思います」 とお伝えしました。


腎臓のチェックは尿比重から


本来であれば血液検査で腎臓の状態を確認することも多いですが、 費用のこともあります。

そこで今回は まず尿比重で腎臓の働きをチェックしてみましょう と提案しました。

尿比重は、比較的負担の少ない検査ですが、 腎臓の状態を知る手がかりになります。


爪切りから見つかる病気もある


今回のきっかけは、ただの爪切りでした。

ですが

・瞳の変化
・見えにくそうな様子
・血圧の上昇

といったことから、体の中の問題が見えてくることがあります。

猫では 高血圧は意外と気づかれにくい病気です。

しかし

・目
・脳
・腎臓
・心臓

などに影響することがあります。

小さな変化でも、 気になることがあれば相談していただければと思います。
2026-03-18 05:00:00

猫の蛋白尿と血圧 ある症例から考えたこと

カテゴリ : 腎・泌尿器


ある猫で、血液検査の数値に少し変化が出ました。

クレアチニンが初めて2を超え、BUNも40台になっていました。

「これは腎臓病の初期かもしれない」

そう思い、そのとき初めて尿蛋白クレアチニン比(UPC)を測定しました。


初回の検査結果


初回の検査結果は次の通りでした。


UPC:2.24

UPCは猫の蛋白尿を評価する検査で、

0.2未満:正常
0.4以上:蛋白尿

とされています。

この猫の2.24という値は、かなり強い蛋白尿でした。


当日の血圧について


本来であれば、この時点で血圧も測定しておくべきでした。

しかしこのときは事情があり、当日の血圧測定ができませんでした。

ただ、この猫は約2か月前の血圧測定で152mmHgでした。

猫では150〜159mmHgは、いわゆるグレーゾーンとされています。

そのため、血圧の影響による蛋白尿の可能性も考え、フォルテコールをの投与を開始しました。




蛋白尿とは何か


腎臓は血液をろ過する臓器です。本来、体に必要なタンパク質は尿に漏れないようになっています。

しかし腎臓に余計な圧がかかると、このフィルターに負担がかかり、タンパク質が尿に漏れてしまうことがあります。

つまり蛋白尿は、腎臓の中のフィルター(糸球体)に余計な圧がかかり、腎臓が負担を感じているサインと考えることができます。


フォルテコールの働き


フォルテコールはACE阻害薬という薬です。この薬には血圧を下げる作用と、腎臓の糸球体にかかる圧を下げる作用があります。

その結果、腎臓のフィルターにかかる負担を減らし、尿に漏れるタンパクを減らす効果が期待できます。


半年後の再検査


投与開始から半年後に再検査を行いました。

結果は次の通りでした。




UPC:0.09

つまり蛋白尿は消えていました。

さらにこのとき血圧を測定すると、120mmHgでした。

フォルテコールによって血圧が下がり、糸球体にかかる圧も下がった結果、蛋白尿が改善したと考えました。


反省点


この症例では、初回に血圧を測定していなかったことが少し悔やまれます。

もし当日の血圧を測定していれば、より正確に評価できたと思います。

臨床では、こういう「あとから思うこと」も少なくありません。


この症例から感じたこと


猫の蛋白尿は、腎臓の糸球体に余計な圧がかかっているサインであることがあります。

そして血圧や糸球体の圧を下げる治療によって、蛋白尿が改善する場合があります。

この症例は、そのことを改めて考えさせてくれた症例でした。

脊椎障害のある猫の排泄管理

カテゴリ : 消化器

     ※結腸~直腸にびっしりと詰まった便

数年前にも取り上げました、保護したときから脊椎の障害がある我が家の猫です。

歩行も少し不自由ですが、いちばん気を遣うのは排泄です。

自分のタイミングでうまく出すことができません。

便は腸にたまり、ある程度たまったところで腹圧がかかったときに“ところてん”のように押し出されます。

完全に出し切れるわけではありません。

そのため、半年に一度ほど鎮静下で腸内の便を掻き出す処置を行っています。


神経が関わる排便の問題


脊椎に障害があると、直腸の感覚が鈍くなったり、排便のタイミングがつかめなくなったり、うまく力が伝わらなくなったりします。

腸がまったく動いていないわけではありません。

ただ、「出す」という最終段階がうまくいかないのです。

だから治療の中心は、“出させる”ことよりも、“ためすぎない”ことになります。


日常の管理


この猫では、いくつかを組み合わせて維持しています。

便の量を減らす目的で、低分子プロテイン食を使用しています。

消化吸収率を上げ、残渣を減らすためです。

便の水分バランスを整えるために、サイリウムを少量使っています。

量が多すぎると逆効果になることもあるため、慎重に調整しています。

腸の動きを補助する目的でモサプリドも使用しています。

正直に言えば、モサプリドは猫の便秘に対して強いエビデンスが確立している薬ではありません。

結腸主体の便秘にどこまで有効かという議論もあります。

それでも、消化管運動促進作用に期待し補助的に使っています。

劇的に変わる薬ではありませんが、破綻させないための一つの要素だと考えています。


完璧にはならない


この管理で、正常な排便になるわけではありません。

それでも、直腸の過度な拡張を防ぎ、巨大結腸の悪化を抑え、掻き出し処置の頻度を保つという意味があります。

排泄管理は、「治す医療」というよりも、「崩れないように支える医療」です。


地味な医療の価値


半年に一度の処置は必要です。

でも、半年で済んでいるとも言えます。

派手な治療ではありません。目に見える劇的な変化もありません。

けれど、日々の小さな調整の積み重ねが、この猫の生活を支えています。

排泄の問題は、生活の質を大きく左右します。

うまくいかない日があっても、管理が続いていること自体が、大切な医療だと思っています。

同じように排泄のことで悩んでいる猫は少なくありません。

派手な治療ではなくても、支える方法はあります。
2026-03-04 03:00:00

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