
リブレのリーダーとケトン測定電極
糖尿病は当院のような小さな個人病院でもよく遭遇する猫ちゃんの内科疾患です。
昨年9月に飲ませるタイプの糖尿病治療薬が販売開始されたのですがそれからも数頭糖尿病の猫ちゃんを診察をさせて頂く機会がありました。
ただいずれの子もその内服薬は使用せずに従来からの注射によるインスリン投与により治療を行っています。
飲むタイプの治療薬は猫ちゃんにとっては注射という物理的な痛みがなくなり、オーナー様にとってはかわいい子に注射を打たないといけないという心理的負担がなくなりとても良いのですが・・・
何故インスリン注射による治療を選択したのかと言いますといずれの子も来院時に血液あるいは尿中にケトンという成分が認められたからです。
このケトンが出ている子にはこの飲ませるタイプの糖尿病治療薬は使えません、先ずはインスリン治療が優先なのです。
糖尿病を簡単に説明しますとインスリンが少なくなったり無くなったりすることでエネルギー分となる糖分が体に取り込まれなくなり余分な糖分が血液中をぐるぐる循環し色々な悪影響が出てくる病気です。
インスリンは体が糖分を取り込むために必要です。
糖分を取り込めなくなった体は脂肪からケトンという成分をつくりだしそれを糖分の代わりにエネルギー源として利用します。ケトンはインスリンが無くても利用できるのです。
「それじゃあケトンを利用しとけばいいじゃないですか」となりますがケトンが増えすぎることは体にとってはよくない事なのです。
この飲むタイプの糖尿病治療薬は増えすぎた糖分をおしっこに捨てて血糖値を下げてくれる作用はあるのですが体に糖分を取り込む作用はありません。
糖分の体への取り込みはわずかながら残っている自前のインスリンに頼らなければなりません。
ケトンが出ているあるいは出ていたという事はこの自前のインスリンが全くなく糖分の体への取り込みが出来ない可能性があるという事です。
という事は飲むタイプの糖尿病治療薬を利用すると増えすぎた糖分をおしっこに捨て血糖値を正常に保ってくれるかもしれないけれど糖分の体への取り込みはできておらずにその結果エネルギー分の確保のために体はケトンを製造し続け自分を傷つけている状態になってしまう可能性があるという事です。
ですので一度でもケトンを認めた猫ちゃんには例えインスリン治療によりケトンが認められなくなっていても飲むタイプの治療薬は使いづらいのです。自前のインスリンが全くないかもしれないからです。
前置きが物凄く長くなりましたが今日の本題に入ります、糖尿病の治療ではケトンが出ていないかを知っておく必要があります。
特に飲むタイプの治療薬を利用する場合は大切な検査となります。
ケトンはアセト酢酸、βヒドロキシ酪酸、アセトンという三つの成分の総称です。
少し話がそれますが以前に糖尿病のオンラインセミナーに参加した時に「ケトンはどうやって測定していますか」との質問が講師の先生にありました。
私はその時に「えっ、そんなの尿試験紙でしょ。ちょっと基本的過ぎて恥ずかしい質問だなぁ」と内心で思っていました。講師の先生は「ん-まぁ尿試験紙でいいでしょう」との答えでした。
セミナー後、あまりにも基本的な質問だった事と講師の先生の「ん-まあ」というニュアンスが気になり何故かなぁと調べてみますと恥ずかしいのは私の方でした。
ケトンの主成分はβヒドロキシ酪酸で糖尿病性ケトーシス、ケトアシドーシスの検出にはβヒドロキシ酪酸の測定が望ましいとの事でした。
尿試験紙はアセト酢酸を検出しているだけにに過ぎず尿試験紙でケトン陰性であってもβヒドロキシ酪酸は高値かも知れず糖尿病性ケトーシスあるいはケトアシドーシスを見逃してしまう可能性があるとの事です。
質問された先生も講師の先生もこの事を念頭に置いてのやり取りだったのでしょうね。

尿試験紙:ケトン(アセト酢酸)陽性
それではβヒドロキシ酪酸をどうやって測定しようかと調べてみますと答えは身近にありました。
まだ測定実績はないのですが血糖測定センサーリブレのリーダーでβヒドロキシ酪酸が測定できるようです。(最初の画像)
リブレはずっと利用してきていましたのに説明書のケトンの項目についてはあまり気にとどめていませんでした・・・。
測定には別売りのβ-ケトン測定電極Ⅲという専用チップが必要で調剤薬局で購入できます。以前はアスクルでも取り扱いがあったようです。
因みに猫ちゃんのβヒドロキシ酪酸の基準値ですが
2012年と少し古い文献から
正常猫
0~0.1mmol/L
ケトンが出ていない糖尿病の猫
0~0.9mmol/L(中央値:0.1mmol/L)
糖尿病性ケトーシスの猫
0.6~6.8mmol/L(中央値:1.7mmol/L)
糖尿病性ケトアシドーシスの猫
3.8~12.2mmol/L(中央値:7.9mmol/L)
で2.4mmol/L以上で糖尿病ケトアシドーシスを発症している可能性が高いとの事です。
※糖尿病で血液や尿中にケトンが出ている状態を糖尿病性ケトーシスさらに状況が悪化し酸性に傾いている状態を糖尿病性ケトアシドーシスとそれぞれ言います。
話が戻って飲むタイプの糖尿病治療薬はその使用にあたって投薬開始後の最初の何日間かはこまめなケトン測定が必要になります。
尿試験紙もリブレもケトン測定にはいずれも採血や採尿が必要となりますので少し面倒です。
そこでリブレで血糖値を測定するように自宅でも簡単にケトンを測定できないかなとネットを検索していますとSiBio Ketone Sensorという製品を見つけました。
詳しくはありませんがケトンダイエットと呼ばれるダイエットがあるようでその時に利用するですそうです。

以前はアマゾンで購入できたのですが今は取り扱いがありません。
Sibioのホームページから購入できそうです。(只今注文中です)

使用方法はリブレと全く一緒です。
専用リーダーはありませんので読み取りアプリをスマフォにダウンロードして測定します。
測定するケトンはβヒドロキシ酪酸です。

※アプリ画像はホームページより転載
糖尿病治療中の猫ちゃんとオーナー様にご協力をお願いしセンサーを装着させて頂きました。
本当にありがとうございました。
装着時にはインスリン治療により既に尿試験紙でケトン(アセト酢酸)が陰性となっていました。

測定は自動的に5分間隔で行われケトン(βヒドロキシ酪酸)は継続して0mmo/Lでした。
1例のみの装着で今後も検証が必要ですが糖尿病治療にも利用できるのではと思われました。
ただしこの製品自体 not for medical use となっていますのでご注意ください。
検査結果をプリントアウトしたものです。
