3月5日のブログでご紹介した猫ちゃんの続きになります。
下痢と体重減少を主訴に来院され診察中に心雑音を認め、血液検査で甲状腺機能亢進症と診断した猫ちゃんです。
今回はその後に実施したレントゲンやエコー検査からわかってきた「心臓の状態」についてのお話です。
1 心筋症にはタイプがあります
(真の心筋症と、ほかの病気が原因で起きる心筋症)2月19日のブログでは
①心筋症にはもともと心臓に問題があって発症する真の心筋症と何か先行する原因が合ってそれにより引き起こされる二次的な心筋症に分ける事が出来ます。
②先行する原因としては高血圧症、甲状腺機能亢進症、末端肥大症、脱水、腫瘍などが考えられます。
③先行する原因が高血圧症による肥大型心筋症なら「高血圧症に伴う肥大型心筋症フェノタイプ」というように最後にフェノタイプという言葉をつけて真の肥大型心筋症と区別します。
というようなお話をしました。
2 今回の猫ちゃんも“フェノタイプ”でした
(甲状腺機能亢進症が先にあったケース)今回のエコー動画の猫ちゃんも肥大型心筋症の疑いがあるのですが甲状腺機能亢進症が先行する原因と考えられましたので「甲状腺機能亢進症に伴う肥大型心筋症フェノタイプ」と診断しました。
実はこのエコー動画は3月5日のブログでお話しをしました甲状腺機能亢進症を発症した猫ちゃんのものです。
3 血液検査で見えてきた心臓の負担
(pro-BNPとTT4の高値)エコー検査に先立って聴診器で心雑音を、血液検査でpro-BNPおよびT4値の上昇を認めていました。
pro-BNPは心臓に負担がかかると血液中で増える成分です。
下の画像はpro-BNP値の上昇を検出する簡易キットです。向かって右側の青い丸のほうが濃ゆく出るとpro-BNP値が上昇していることを示します。
※画像は別の猫ちゃんの結果です

TT4は甲状腺のホルモンです。基準値が0.8-4.7のところ20.0以上となっています。

4 レントゲンでわかった心拡大
(数値で見ても明らかな心臓の大きさ)これらの結果から甲状腺機能亢進症に伴う心筋症が疑われましたのでレントゲンおよびエコー検査も行いました。
レントゲン検査です。胸部を左横からながめている感じですがが心臓が大きくなっていました。
心臓の縦の長さ(ピンク)と横の長さ(ブルー)をそれぞれ測り、それぞれの長さがが4番目の胸椎の先頭(イエロー)から胸椎何個分になるかを調べます。
この子のケースでは縦の長さ(ピンク)は胸椎5.5個分、横の長さ(ブルー)は4.8個分でした。
その数値を足し算すると10.3となりました。
猫ちゃんではこの数値は7.5前後が基準とされていますので10.3はかなり心臓が大きくなっていることを表しています。

比較の為に正常な猫ちゃんのレントゲン画像も載せておきます。ピンクの長さは4.3個分、ブルーの長さは3.1個分、足し算すると7.4で基準値に近い値でした。

5 エコー検査でわかった壁の厚みと左心房の拡大
(心筋の肥大)次に心臓の内部の様子を見るためにエコー検査をおこないました。上の動画がその時のものです。
下の画像は上の動画で心臓が一番拡張した時の静止画です。点線1では心臓の右と左を分ける壁(筋肉)の厚さを、点線2(黄色の点線)では左側の心臓の壁(筋肉)の厚さをそれぞれ測っています。
点線1は5.3㎜、点線2は6.1㎜でした。心臓の壁の厚さが6.0㎜を超えてきたら心筋の肥大を疑いますので血液検査の結果と合わせて「甲状腺機能亢進症に伴う肥大型心筋症フェノタイプ」と診断しました。
次の画像は上の動画で心臓の左心房とよばれる場所に一番血液が流入した時の静止画です。
点線部でその時の左心房の幅を測っているのですが19.5㎜で基準値の上限と言われている17.0㎜を超えてきています(左心房拡大)。これは心臓の負担がそれなりに進行していることを示しています。
また左心房の拡大は左心房内での血流の乱れがあることも示しており血流の乱れは血栓(血のり、血の固まったもの)を生じさせる可能性があります。
血栓が心臓を飛び出し大事な血管を詰まらせると大変なことになります。
※左心房の拡大が認められますが血栓はありません。
6治療と今後の注意点
(甲状腺と血栓予防の薬について)治療は甲状腺ホルモンの働きをブロックするお薬と血栓を予防するお薬を処方しました。
甲状腺の病気が見つかって治療を始めたことで見た目の症状が落ち着いてきたように見えても実際には体の中で心臓に負担がかかっていることもあります。
今回の猫ちゃんのようにひとつの病気が他の臓器にも影響を与えることがあるため、状況に応じて定期的な検査や経過の確認が大切になります。
気になることがあればいつでもご相談くださいね。