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尿試験紙では陰性、リブレでは0.9 ― ケトン測定から見えたこと

カテゴリ : 内分泌:ホルモンの異常や糖尿病


つい最近(8月27日、9月3日にブログで取り上げた)、糖尿病と末端肥大症を併発していた猫ちゃん。

インスリン投与量の調整に苦慮するなか、9月3日の記事投稿直後から容態が急変し、腎不全を発症しました。

入院で血糖は落ち着いたものの、食欲は戻らず体調は徐々に悪化しました。

飼い主様は深く悩まれた末に治療を終える決断をされ、退院から二日後に永眠しました。

心よりお悔やみ申し上げるとともに、安らかに眠れますようお祈りいたします。

それで、こうした話のあとにつづける内容ではないかもしれませんが、
今回の治療を通して、ある気づきがありました。



―― ケトン測定の不一致


入院中にケトン体をチェックした際、尿試験紙(血漿を使用)では「陰性」だったのに、リブレでは0.9とわずかな上昇を示していました。

つまり「尿試験紙では拾えない軽度のケトン上昇を、リブレが捉えられる可能性がある」ということです。

これは、ケトアシドーシスの前段階を見逃してしまうかもしれない、という示唆でもあります。

ちなみに、尿試験紙とリブレでは測定しているケトン体が異なります。

尿試験紙は主にアセト酢酸(AcAc)を、リブレなど血液での測定はβヒドロキシ酪酸(BHB)を検出します。

糖尿病やケトアシドーシスの際には、このBHBが先行して、しかも大きく上昇するため、BHBの動向をモニターする方が病態をより反映すると考えられています。

今回の“尿では陰性、リブレでは0.9”という違いも、この測定対象の違いが背景にあるのでしょう。


―― センベルゴ(ベルパグリフロジン)との関連


昨年登場した猫用の経口血糖降下剤、センベルゴ(ベルパグリフロジン)。

SGLT2阻害薬というタイプで、血糖を尿に排泄させる仕組みです。

インスリン注射が難しい猫ちゃんには選択肢となりますが、その一方でケトーシスやケトアシドーシスに注意が必要とされています。

私自身はまだ処方経験がありません。

多くの猫ちゃんは糖尿病がかなり進んでから来院することが多く、経口薬だけで管理できる症例にはなかなか出会えないからです。

それでも今回の「リブレで軽度のケトン上昇を検出できた」という経験は、今後こうした薬を使う際にも意識しておくべき視点だと感じました。


―― ご家庭でできるチェック


ご家庭でケトン体を確認するには、尿試験紙が現実的です。

採尿さえできれば簡単にチェックできますが、軽度の上昇を見逃すことがある点は頭に置いておく必要があります。

それに対しリブレリーダーと専用のケトン試験紙を使えば、より正確にケトンの上昇をとらえることができます。

採血は、耳介採血などの方法もありますが、深爪による出血に頼らざるを得ないことが多いので、猫にとっては負担があり頻回には適しません。

ですが、月に一度の補助的なチェックとして行えば、安心につながるかもしれません。


―― まとめ


・尿試験紙は簡便で一般的に使えるが、軽度のケトン上昇を見逃す可能性がある

・リブレでは0.9という軽度の上昇を捉えることができた

・尿試験紙はアセト酢酸(AcAc)、リブレはβヒドロキシ酪酸(BHB)を検出するため、結果が食い違うことがある

・BHBの動向をモニターする方が病態をより反映するとされている

・SGLT2阻害薬(センベルゴ)の時代を考えると、ケトンモニタリングはさらに重要になる

・尿試験紙は簡単で取り組みやすいが、より正確に変化を捉えたい場合にはリブレ+ケトン試験紙の活用が望ましいと思われる

町の病院での小さな気づきですが、糖尿病の猫ちゃんと暮らす方や、同じように診療に携わる先生方にとって、何かの参考になればと思います。
2025-09-17 05:00:00

ワンちゃんや猫のデンタルケアに新しい選択肢「クリスタルジョイ」

カテゴリ : お世話

先々週、保険会社アニコムさんの担当者が興味深い製品のサンプルを持ってこられました。

その名も 「クリスタルジョイ(CRYSTAL JOY)」。歯磨きジェルです。


歯みがきが大切なのはわかっているけれど…


ワンちゃんや猫にとって歯周病は決して珍しい病気ではありません。歯肉の炎症から歯のぐらつき、さらには心臓・腎臓など全身の健康に影響することもあります。

ただ「毎日の歯みがきが大事」とわかっていても、実際に続けるのは難しい、という飼い主さんも多いのではないでしょうか。


新しいデンタルケアジェル


クリスタルジョイは、無色・無味・無臭のジェルタイプで、飲み込んでも安心な成分設計です。

もともとは人のオーラルケアに使われていた製品で、そこから犬や猫には有害となるキシリトールを除いて製品化されているため、安心して使えるようになっています。

このジェルは歯や歯ぐきに留まりやすく、唾液と一緒に口全体に広がります。

このジェルの主成分は普段は水のように安定しているのですが、歯の表面や歯ぐきに付着した汚れや細菌に触れると反応し、清浄作用を発揮します。

役割を終えるとすぐに水に戻るため、口内に強い刺激を残さず、安全性にも配慮されています。

このしくみを MA-T System® というそうです。


ブラシが苦手な子にも続けられる

オーラルケアの理想は歯ブラシにジェルをつけて磨くことですが、このジェルはブラシが苦手な子にも、そのシステムにより、歯磨き効果が期待できそうです。

指で歯や歯ぐきに塗る、ガーゼで拭く、あるいはなめさせるだけでも良いそうです。

どうしてもなめさせるのが難しい場合には、鼻の頭に少量を塗ってあげる方法もあります。

自然に舐め取ってくれるので、歯や口に直接触れるのが難しい子にも取り入れやすい工夫です。

実際に、うちの猫は歯ブラシが平気なのですが、試しに鼻の頭に塗ってみたところ、すぐに舐めてくれました。


こうしたちょっとした工夫が「続けられるケア」につながります。


獣医師としての感想


もちろん、ジェルだけで歯石が取れるわけではありません。すでに歯石がついている子には、スケーリング(歯石除去処置)が必要です。

ただし、歯ブラシが難しい子でも、口腔ケアを習慣化できるという点で、とても良い選択肢になり得ると感じました。


まとめ


歯みがきが得意な子も、苦手な子も。

大切なのは「無理なく毎日続けられる方法を見つけること」です。

クリスタルジョイのサンプルが(ひとつだけになりますが)ありますので、興味のある方はスタッフまでお声かけください。
2025-09-10 05:00:00

猫の末端肥大症と心筋症の関係~糖尿病との合併症例~

カテゴリ : 内分泌:ホルモンの異常や糖尿病


先週の続き


先週のブログでは、糖尿病の治療が難しい時、その背景に末端肥大症があるかもしれないとのお話をしました。

その最後に「初診時に心不全様の症状が見られました」と書き、次回はそのお話をしますねとお伝えしました。

ただ正確には、心エコー検査で心筋症様の変化が確認されただけで、実際に心不全を起こしていたわけではありません。

今回は、この心筋症と末端肥大症との関係についてです。


初診時に行ったpro-BNP検査


体調の悪い猫ちゃんが初診で来院した際、私は最近、取り掛かりの検査に簡易pro-BNP検査を加えるようにしています。

  • pro-BNP検査とは:心臓に負担やダメージがあるかを簡単に確認できる血液検査
  •  
  • 使い方:ダメージがある場合、点滴などの治療で心臓に負担をかけないよう判断する目安になる
  •  
今回の猫ちゃんは、pro-BNPで「ダメージ有」の判定でした。


心エコーで確認された心筋症様の変化


そこで心臓にエコーをあてて確認をしました。冒頭のエコー動画になります。

ただし、この検査は緊急の簡易エコーで、一断面しか見ておらず、心電図とも同期させていません。

下はその動画のある瞬間の静止画です。



心臓の右・左を隔てる壁の厚さが8.4mm、左側の壁が8.1mmと分厚く、肥大型心筋症を思わせる見え方でした。

基準値は5.5mm程度までとされています。

しかし、糖尿病によるひどい脱水があったこともあり、これは一時的な変化である可能性が高いと考えました。


脱水による心臓壁の見え方


脱水があると心臓に戻る血液量が少なくなり、心臓自体が縮むため、壁が厚く見えます。

脱水が改善され血液量が正常に戻れば、心臓のサイズも元に戻り、壁の厚さも正常に近くなります。

ただ本当に心筋症があるかもしれないので、点滴は心臓に負担をかけないよう慎重に実施しました。


脱水改善後のエコー所見


糖尿病の治療が進み、後日脱水が改善された時のエコー動画です。




下はこの動画のある瞬間の静止画です。




  • 壁の厚さ(心室中隔):4.8mm
  • 左側の壁:5.8mm
  •  

左側の壁はやや厚めでグレーゾーンでしたが、6mmを超えなければ心筋症とは判断せず、この時点では「もとに戻ってよかった」と単純に考えていました。


末端肥大症が関与している可能性


その後、先週のブログでお話したように、IGF-1測定から末端肥大症の疑いも出てきました。

そうなると、グレーゾーンである5.8mmの意味合いも変わってきます。

末端肥大症では、成長ホルモンの過剰分泌が心筋にも影響を与え、心筋が厚くなることがあります。

今回の猫ちゃんの心筋肥大も、糖尿病による脱水の影響だけでなく、末端肥大症が関わっていた可能性があります。

そのため、今後は糖尿病の管理と並行して、定期的に心臓の評価を続けることが重要となりました。
2025-09-03 12:41:24

猫の末端肥大症と糖尿病インスリン抵抗性の関係

カテゴリ : 内分泌:ホルモンの異常や糖尿病

※IGF-1測定結果

7月23日のブログでご紹介した猫ちゃんのお話の続きです。

前回のブログでは、こんなお話をしました。

糖尿病が落ち着いていた猫ちゃんが、再びたくさん水を飲むようになり、体重も減ってきたので検査をしたところ、フルクトサミンの値が上がっていました。

そこで「インスリン抵抗性」が疑われ、原因としては膵炎による嘔吐や痛みのストレスがインスリンの働きを妨げているのではないかと考えました。

そのため膵炎への対応を行い、経過を見ていくことになった、という内容でした。

今回はその後についてです。


膵炎治療から3週間後の変化


膵炎への治療を始めてから約3週間。

飼い主様からは「嘔吐は少し落ち着いたように思うが、水を飲む量はまだ多く、体重も痩せてきている」とのお話がありました。

検査では、フルクトサミンはやや下がっていました。ただし糖尿病治療を始めたばかりの頃に比べると、水を飲む量や体重の変化、フルクトサミンの改善度は十分とは言えません。

つまり、まだ血糖コントロールは安定していない状況です。


IGF-1測定と末端肥大症の可能性


ここで、別の原因によるインスリン抵抗性を探るため、血液中の IGF-1(インスリン様成長因子) を測定してみました。

これは成長ホルモンの分泌状態を反映するもので、末端肥大症という病気の診断に使われます。

この数値が高いときは末端肥大症の可能性があると考えます。


末端肥大症とは?


脳の奥にある下垂体という箇所が腫れて成長ホルモンが過剰に出る病気で、体のいろいろな部分がゆっくり大きくなっていきます。

顔や手足といった“末端”に症状が現れやすいため、この名前がついています。

過剰に分泌された成長ホルモンが内臓や心臓にも負担をかけ、さらにインスリンの邪魔をし糖尿病を治りにくくするのも特徴です。

実際にIGF-1を測定したところ、基準値が 138~673 のところ 1900 と、非常に高い数値が出ました。(※最初の画像)

つまり、この猫ちゃんがインスリンの効果を得にくいのは、末端肥大症による可能性が高いと考えられました。

ちなみにこの猫ちゃんは顔や手足の末端には見た目の著しい変化はありませんでした。

必ずしも見た目の変化が起こると言うわけではありません。


今後の治療選択肢


インスリンの効果を高めるには、次のような選択肢があります。

①放射線療法で下垂体を小さくする
 根治療法となり、インスリン治療が不要になる可能性もあります。
 費用や施設の問題はありますが、北摂地域には施術可能な施設があります。

②成長ホルモンの分泌を抑えるカベルゴリンというお薬を試してみる。
  •  
③インスリンの用量を増やす
 末端肥大症では高用量が必要になることが多いため、まだ増量の余地があり
 ます。    

④インスリンの種類を変える。

    などです。

飼い主様との話し合いで、まずはインスリンの種類を変更し経過を追っていくこととなりました。


まとめと次回予告


今回の経過で、この猫ちゃんの糖尿病の難しさの背景に「末端肥大症」が強く関与している可能性がわかりました。

またこの猫ちゃんは初診時に心不全様の症状も出ていたのですが、これも末端肥大症と関係しているかもしれません。

その点については次回詳しくお話しますね。

猫の糖尿病やインスリン抵抗性について不安なことがあれば、どうぞご相談くださいね。
2025-08-27 06:00:00

猫の目ヤニが片目だけに出るのはなぜ?再発とヘルペスの関係

カテゴリ : 眼


片目優位の再発


先週のブログでご紹介した猫ちゃんは両目に症状が出ていましたが、再発と考えられるケースでした。

ただ、臨床の現場では 再発の場合、片目だけに症状が出ることや、両目に出ても片目の方がより激しく症状が出ることが多いように感じます

※これはあくまで私の経験的な印象です。

片目により症状が強く出る理由を、 人間の帯状疱疹という病気を引き合いに出して考えてみます。

帯状疱疹と猫ヘルペスの共通点


人間で50歳以上になると心配になる帯状疱疹も、原因はヘルペスウイルスです。

子どものころにかかる水ぼうそう(ヘルペスウイルスの一種)のウイルスが神経に潜伏し、年齢を重ねて体力が落ちると再び活動を始めます。

このとき皮膚の神経の走行に沿って痛みや炎症を起こし、症状は片側だけに出ることが一般的です。

ウイルスは左右均等に潜伏するのではなく、どちらか一方の神経に優位に入り込むことが多いと考えられています。

猫ヘルペスウイルスも三叉神経に潜伏すると言われていますので、同じ仕組みで片目だけに症状が出ることがあるのかもしれません。


実際の片目症例


先週のブログ公開後、左目により激しく症状が出ていた猫ちゃんが再診に来られました。

最初は他院で「ヘルペスウイルスの関与が疑われる」としてインターフェロンの点眼薬が処方されていましたが、目ヤニがひどくなってきたとのこと。

そこで当院ではインターフェロンの点眼を継続していただきつつ、クラミジアにも効果のある抗生剤の点眼を追加処方しました。

2週間以上してからの再診では、ひどい目ヤニはなくなっていましたが、涙目はまだ続いていました。



今回はインターフェロンの点眼を使い切った後は、しばらく様子を見ていくことにしました。

この子の場合も、問診やこれまでの経過から、新たな感染というより潜伏ウイルスの再燃と考えられました。

症状はある程度落ち着き、飼い主さまも安心されたご様子でした。
2025-08-20 06:00:00

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