ある猫ちゃんの保護施設から健康診断の依頼がありその一環として心エコー検査を実施しました。
心音の聴診の時から感じていたのですが徐脈という心拍数が減少する状態が確認されました。
画面の右上の方にHR95とありますがこれは現在の心拍数が1分間に95回ですよという事です。
猫ちゃんの正常な心拍数は人に比べて速く文献にもよりますが120以上それこそ病院に来て緊張でドキドキしていると200前後ということも普通で検査中の猫ちゃんならいつもよりさらに速くなります。
ですので検査中の心拍数95はかなり遅いと考えてください。
それで原因を考えたのですがエコー画面の下に出ている心電図を見て「房室ブロック」ではと考えました。
房室ブロックについては後で簡単に説明をさせて頂きますが何種類かあるのですが自信をもって「こういう種類の房室ブロックですよ」と診断できませんでしたので循環器科のある二次病院を受診していただきました。
結果は「第3度の房室ブロック」との診断でした。
ここからは第3度の房室ブロックの説明です。
上はエコー動画のある瞬間の静止画です。
RA:右心房 この動画では大動脈に隠れて見えていませんので白い線で描いています
RV:右心室
LA:左心房
LV:左心室
①:洞房結節 いわゆるペースメーカーで右心房にあります。
②:房室結節
ぺースメーカーで生じた電気信号が緑の矢印を伝わって心房→心室の順で心臓が収縮します。血液は心房から心室へ流れていきます。
①が興奮し電気信号が生じると心房が収縮します。その心房が収縮する時に心電図上ではP波と呼ばれる波形が記録されます。ちなみに①の興奮は心電図でとらえることができません。
①で生じた電気信号は心房を収縮させるとともに②を刺激します。
刺激を受けた②も興奮し心室に電気信号をおくり心室を収縮させます。心室の収縮は心電図上ではQRS波と呼ばれる波形で記録されます。
それでこの猫ちゃんの心電図を見た時に「P波とQRS波の間隔がやけに広いなぁ、①で生じた電気信号が②から先にきちんと送られていない、心房と心室の間がブロックされているんじゃないのかなぁ」と感じました。通常はP波の直ぐ後にQRS波がきます。
第3度の房室ブロックとは上の図のピンクの×印のところで完全に電気的な流れが遮断されている状態の房室ブロックの事で完全房室ブロックとも言います。
でも電気信号が遮断されているのに遅いながらも心室も収縮し心電図でも心室の収縮を示すQRS波が記録されていますよねこれは何故でしょうか。
「心房から心室に電気信号が伝わらないからもう心室は収縮しなくていいや」では体に血液が循環しなくなり大変なことになってしまいます。
そこで体は不思議なもので心室の細胞の一部が自らペースメーカーを務めるようになり血液の循環を保とうとします。
上の画像では③の場所(この場所は僕が適当に決めたもので本当はどこかわかりません)としています。
この心電図でとらえられたQRS波は①の電気信号が伝わって記録されたものではなく③がペースメーカーとなり記録されたものとなります。
治療ですがこの猫ちゃんは今のところ体調に変化はないので経過観察となり何らかの心臓病の症状が出てきた時にそれに対応していくことになりました。