ある日スコテイッシュ・フォールドさんが心臓のエコー検査の為に来院されました。
検査中に前足、特に先端に触るとことのほか嫌がりましたので「骨軟骨異形成症」と呼ばれる関節の病気が心配されました。
この病気はスコティッシュ・フォールドさんに見られる遺伝病で主に手首や足首、指、しっぽの関節に変形および痛みを生じます。
重症度に差はありますが「折れ耳」のスコティッシュさんには必ず発症すると言われています。
一般的には後足の先端に最も変形が生じやすいとされていますが今回はその確認の為に前足の先端としっぽのレントゲン撮影を行いました。
前足先端のレントゲン写真
しっぽの付け根付近のレントゲン写真
いずれの写真でも関節の変形が見られる箇所を水色に塗りつぶしています。
ちなみに下は健康な猫ちゃんのしっぽの骨のレントゲン画像です。
レントゲン写真と症状、折れ耳さんであることから「骨軟骨異形成症」と診断しました。
この病気には決め手となる治療法がありませんので痛みの緩和をはかることが目標となります。
ただし一般的な関節の痛み止めはほとんど効果がないとされています。
近年、放射線を患部に照射し痛みの緩和をはかる試みがなされある一定の効果が認められているようです。
私自身はそのような治療を受けた猫ちゃんにかかわったことはないのですが、大阪府内でも放射線療法が可能な施設が増えてきましたのでオーナー様には受診を提案いたしました。
また骨軟骨異形成症の他にどの種類の猫ちゃんにも発症する変形性関節症がひじの関節に認められました。
前足に触ると痛がったのはこのひじの関節の変形による痛みも関係していたと思われます。
下のレントゲン写真は右ひじの関節ですが斜線のところは「骨棘(こっきょく)」塗りつぶしたところは「不透過性の亢進」とよばれるレントゲン所見で変形性関節症があるとみられます。
それと関節に何らかの障害があり関節軟骨がすり減ると尿中で「CⅡNE」とよばれる成分が増加するのですがあわせて調べてみますと0.9pM/mgと基準値(0.8未満)をわずかながらオーバーしていました。これにより関節軟骨の障害がより確かなものとなりました。
変形性関節症の痛みに対しては以前ブログでお話をしました新しいタイプの痛み止め:抗NGFモノクロール抗体製剤と呼ばれるお薬の月一回の注射投与が有効とされています。
オーナー様には「ひじの痛みの緩和は可能かもしれませんのでこのお薬の投与をおこなってみましょう。骨軟骨異形成症に関しては放射線療法も考えてみてください。」とお話しました。
上でも述べましたが骨軟骨異形成症による痛みには従来からの痛み止めは効果がないとされており「この注射の効果もどうかなぁ」との思いでした。
ただ獣医さんの間では「効果があるよ」とのお話もちらほらありました。
それで結果ですが2週間後のオーナー様のお話です。
「注射直後から行動範囲が広がり1階と2階を行き来するようになった。放射線療法ではなくこの注射で治療を続けていきたい。」との事でした。
まだ1例ですので他の骨軟骨異形成症の子にも効果が期待できるかどうかははっきりしません。
単に肘の痛みの方がやわらいだだけかもしれません。
ただ手先を触られるのを凄く嫌がっていましたのでやはり主たる痛みは骨軟骨異形成症によるものであってその痛みの緩和効果の方が大きかったのではと考えています。
ですのでこの病気で苦しむスコティッシ・フォールドさんの生活の質の向上への希望が見えてきたように感じました。