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尿管閉塞と診断された猫が、思わぬ回復を見せた症例

カテゴリ : 腎・泌尿器


左の腎臓の断面です。

「Yの字」が横に寝たように見える部分があり、

  • V字の部分が 腎盂
  •  
  • Iの部分が 尿管 です。
  •  
尿管がつまってしまったため、腎盂と尿管が大きく拡張しています。

下に示した、つまりが取れた後の画像と見比べていただくと、その差がよく分かります。


前回のブログでは「尿道閉塞」について書きました。膀胱に尿がたまっているのに出口が詰まって出せない──これは膀胱の“下流”で起こるトラブルです。

今回ご紹介するのはそれとは逆に、膀胱の“上流”で起こる問題、「尿管閉塞」です。

腎臓から膀胱へ尿を送る細い管がふさがれてしまい、膀胱に尿が届かなくなる状態です。

見た目にはどちらも「おしっこが出ない」と同じように見えますが、原因も治療法も大きく異なります。


症状の始まり


「4日間ごはんを食べていない」「2日間おしっこをしていない」という主訴で、一匹の雌猫が来院しました。

トイレに入ろうとせず、頻尿の様子もありません。

身体検査では膀胱に尿がたまっていましたが、強く張りつめているわけではなく、むしろ普通の弾力。

血液検査ではBUNは140以上、クレアチニンは11.23と、腎臓の機能は著しく悪化していました。



超音波検査では左の腎盂と尿管が大きく拡張しており、尿管閉塞が強く疑われました。(最初の画像です)


右腎の状態


一方の右腎臓は、形態的には特に異常が見られず、一見「正常そう」に見えました。

しかし腎臓は、見た目がしっかりしていても機能を失っていることがあります。

慢性のダメージを受けても萎縮が目立たないことがあり、その段階でも糸球体の働きがほとんど残っていない場合があるのです。

この猫もまさにそのパターンで、右腎は外見上は保たれていても、血液検査の数値からすると実際には働いていない状態だったと考えられました。


治療の選択


膀胱穿刺で採尿した尿の比重は1.010と低く、腎不全の進行が裏付けられました。

この時点で救命の可能性があるとすれば外科的治療しかなく、二次病院に紹介しました。

二次病院では「尿管ステント」が提示されました。

尿管にチューブを通して尿の流れを確保する方法で、閉塞を解決するための手段です。

ただし手術には思わぬ事故のリスクがあり、成功しても再発の可能性があることが説明されました。

飼い主さんは悩んだ末、手術は選択せず、自宅で静かに看取る決断をされました。


思わぬ回復


ところが翌日、状況は一変しました。

急に排尿が見られるようになり、それに伴って少しずつ食欲も戻ってきたのです。

日に日にごはんを食べる量は増え、むしろ今度は腎機能の低下による多尿の症状が目立つようになってきました。

再度のエコー検査では、あれほど拡張していた左腎盂と尿管が、すっかり元通りに戻っていました。



腎臓の数値も改善していました。



まとめ


閉塞の原因は結局わかりませんでした。

結石や血の塊、あるいは粘液の栓のようなものが一時的に詰まり、自然に流れたのかもしれません。

いずれにせよ、尿管閉塞は「治療か看取りか」という厳しい選択が迫られることも多い病気です。

けれど実際の現場では、思いがけない経過をたどることもあります。

今回の症例は、そうした予測できない部分と、生命力の不思議さを改めて感じさせてくれるものでした。
2025-10-01 06:00:00

尿閉と高カリウム血症:猫を襲う静かな心臓の危機

カテゴリ : 循環器


二日前からおしっこが出ていない、食欲がなく吐いている――そんな主訴で雄の猫ちゃんが来院しました。

診察室に入ってきたときにはぐったりと横たわっており、固く緊張感のある膀胱が触診されたことから尿閉が強く疑われました。

血液検査では尿毒症に加え、カリウムが8.4mEq/L(基準値はおよそ3.7〜4.6)と非常に高い値を示していました。

これは非常に危険な状態です。

カリウムと心臓

というのはカリウムは心臓の電気を整える役割を持つ大切なミネラルなのですが、増えすぎると電気の流れが乱れて心臓のリズムが崩れ、心停止に至ってしまうのです。

今回の猫ちゃんも、心拍数は130台と健康な猫にしては遅く、すでに高カリウム血症による影響が心臓に現れていました。

心電図の変化

心電図を装着すると、まず目に入ったのは尖って高くなったT波でした。



心電図にはいくつかの波がありますが、その中でもT波はカリウムの影響を受けやすく、血液中のカリウムが高いと大きく形が変わります。

心電図のT波が高いのは危険なサインです。


治療の流れ

治療はまず酸素を吸わせ、静脈路を確保し、心電図で心臓の動きを監視するところから始まりました。

尿閉の根本治療は尿道にカテーテルを通すことですが、この子は重度の高カリウム血症で心臓が不安定だったため、鎮静をかけて行うのは命に関わるリスクがありました。

そこで、まずは心臓を守る治療を優先しました。

最初に投与したのは グルカゴン です。

グルカゴンは心臓の細胞に働きかけてカルシウムの出入りを増やし、心臓の収縮力を後押しします。

カルシウムは心臓が力強く動くために欠かせない物質であり、この働きで拍動を支えました。

次に 膀胱穿刺 を行い、尿を抜いて腎臓への圧力を下げ、余分なカリウムが体に戻るのを防ぎました。

この二つの処置によって、治療開始から30分ほどで心電図に変化が現れました。

T波はまだ完全に正常とは言えないものの、明らかに低下し改善がはっきり分かる状態になったのです。





ここで次の段階として GI療法 を開始しました。

手順は、まず20%ブドウ糖をボーラス投与し、その直後にインスリンを投与、その後は5%ブドウ糖を持続点滴しました。

インスリンは血液中のカリウムを細胞内へ移動させ、ブドウ糖は低血糖を防ぐために一緒に投与します。

GI開始から1時間半後の血液検査では、カリウムは7.4mEq/Lに下がり、心拍数も160台に回復。

この時点ではT波が逆に小さくなりすぎて、はっきり判別できないほどでした。






このとき、根本治療であるカテーテル通過を試みました。

本来は鎮静をかけて行う処置ですが、依然として鎮静のリスクは大きいと判断し、「強い抵抗を示したらすぐに中止する」という前提で鎮静なしで慎重に行いました。

すると思いのほかスムーズに通過し、排尿を確保することができました。

さらに30分後には心拍数は200台に上がり、T波は陰性化(波の山が逆転)しました。

猫では陰性T波も正常範囲に見られるため、この時点で心臓の急性危機は一旦脱したと判断しました。






まとめ

尿閉は、単に「おしっこが出ない」だけの病気ではなく、尿毒症や高カリウム血症によって命を脅かす危険があります。

今回のケースでは、心電図の波形が治療に応じて変化していく様子を目の当たりにしました。

残念ながらこの子は別の要因により最終的に助けることはできなかったのですが、少なくとも心臓の危機は一度は脱することができました。

こうした経験を通じて、尿閉の怖さを少しでも多くの方に知っていただきたいと思います。
2025-09-24 04:00:00

尿試験紙では陰性、リブレでは0.9 ― ケトン測定から見えたこと

カテゴリ : 内分泌:ホルモンの異常や糖尿病


つい最近(8月27日、9月3日にブログで取り上げた)、糖尿病と末端肥大症を併発していた猫ちゃん。

インスリン投与量の調整に苦慮するなか、9月3日の記事投稿直後から容態が急変し、腎不全を発症しました。

入院で血糖は落ち着いたものの、食欲は戻らず体調は徐々に悪化しました。

飼い主様は深く悩まれた末に治療を終える決断をされ、退院から二日後に永眠しました。

心よりお悔やみ申し上げるとともに、安らかに眠れますようお祈りいたします。

それで、こうした話のあとにつづける内容ではないかもしれませんが、
今回の治療を通して、ある気づきがありました。



―― ケトン測定の不一致


入院中にケトン体をチェックした際、尿試験紙(血漿を使用)では「陰性」だったのに、リブレでは0.9とわずかな上昇を示していました。

つまり「尿試験紙では拾えない軽度のケトン上昇を、リブレが捉えられる可能性がある」ということです。

これは、ケトアシドーシスの前段階を見逃してしまうかもしれない、という示唆でもあります。

ちなみに、尿試験紙とリブレでは測定しているケトン体が異なります。

尿試験紙は主にアセト酢酸(AcAc)を、リブレなど血液での測定はβヒドロキシ酪酸(BHB)を検出します。

糖尿病やケトアシドーシスの際には、このBHBが先行して、しかも大きく上昇するため、BHBの動向をモニターする方が病態をより反映すると考えられています。

今回の“尿試験紙では陰性、リブレでは0.9”という違いも、この測定対象の違いが背景にあるのでしょう。


―― センベルゴ(ベルパグリフロジン)との関連


昨年登場した猫用の経口血糖降下剤、センベルゴ(ベルパグリフロジン)。

SGLT2阻害薬というタイプで、血糖を尿に排泄させる仕組みです。

インスリン注射が難しい猫ちゃんには選択肢となりますが、その一方でケトーシスやケトアシドーシスに注意が必要とされています。

私自身はまだ処方経験がありません。

多くの猫ちゃんは糖尿病がかなり進んでから来院することが多く、経口薬だけで管理できる症例にはなかなか出会えないからです。

それでも今回の「リブレで軽度のケトン上昇を検出できた」という経験は、今後こうした薬を使う際にも意識しておくべき視点だと感じました。


―― ご家庭でできるチェック


ご家庭でケトン体を確認するには、尿試験紙が現実的です。

採尿さえできれば簡単にチェックできますが、軽度の上昇を見逃すことがある点は頭に置いておく必要があります。

それに対しリブレリーダーと専用のケトン試験紙を使えば、より正確にケトンの上昇をとらえることができます。

採血は、耳介採血などの方法もありますが、深爪による出血に頼らざるを得ないことが多いので、猫にとっては負担があり頻回には適しません。

ですが、月に一度の補助的なチェックとして行えば、安心につながるかもしれません。


―― まとめ


・尿試験紙は簡便で一般的に使えるが、軽度のケトン上昇を見逃す可能性がある

・リブレでは0.9という軽度の上昇を捉えることができた

・尿試験紙はアセト酢酸(AcAc)、リブレはβヒドロキシ酪酸(BHB)を検出するため、結果が食い違うことがある

・BHBの動向をモニターする方が病態をより反映するとされている

・SGLT2阻害薬(センベルゴ)の時代を考えると、ケトンモニタリングはさらに重要になる

・尿試験紙は簡単で取り組みやすいが、より正確に変化を捉えたい場合にはリブレ+ケトン試験紙の活用が望ましいと思われる

町の病院での小さな気づきですが、糖尿病の猫ちゃんと暮らす方や、同じように診療に携わる先生方にとって、何かの参考になればと思います。
2025-09-17 05:00:00

ワンちゃんや猫のデンタルケアに新しい選択肢「クリスタルジョイ」

カテゴリ : お世話

先々週、保険会社アニコムさんの担当者が興味深い製品のサンプルを持ってこられました。

その名も 「クリスタルジョイ(CRYSTAL JOY)」。歯磨きジェルです。


歯みがきが大切なのはわかっているけれど…


ワンちゃんや猫にとって歯周病は決して珍しい病気ではありません。歯肉の炎症から歯のぐらつき、さらには心臓・腎臓など全身の健康に影響することもあります。

ただ「毎日の歯みがきが大事」とわかっていても、実際に続けるのは難しい、という飼い主さんも多いのではないでしょうか。


新しいデンタルケアジェル


クリスタルジョイは、無色・無味・無臭のジェルタイプで、飲み込んでも安心な成分設計です。

もともとは人のオーラルケアに使われていた製品で、そこから犬や猫には有害となるキシリトールを除いて製品化されているため、安心して使えるようになっています。

このジェルは歯や歯ぐきに留まりやすく、唾液と一緒に口全体に広がります。

このジェルの主成分は普段は水のように安定しているのですが、歯の表面や歯ぐきに付着した汚れや細菌に触れると反応し、清浄作用を発揮します。

役割を終えるとすぐに水に戻るため、口内に強い刺激を残さず、安全性にも配慮されています。

このしくみを MA-T System® というそうです。


ブラシが苦手な子にも続けられる

オーラルケアの理想は歯ブラシにジェルをつけて磨くことですが、このジェルはブラシが苦手な子にも、そのシステムにより、歯磨き効果が期待できそうです。

指で歯や歯ぐきに塗る、ガーゼで拭く、あるいはなめさせるだけでも良いそうです。

どうしてもなめさせるのが難しい場合には、鼻の頭に少量を塗ってあげる方法もあります。

自然に舐め取ってくれるので、歯や口に直接触れるのが難しい子にも取り入れやすい工夫です。

実際に、うちの猫は歯ブラシが平気なのですが、試しに鼻の頭に塗ってみたところ、すぐに舐めてくれました。


こうしたちょっとした工夫が「続けられるケア」につながります。


獣医師としての感想


もちろん、ジェルだけで歯石が取れるわけではありません。すでに歯石がついている子には、スケーリング(歯石除去処置)が必要です。

ただし、歯ブラシが難しい子でも、口腔ケアを習慣化できるという点で、とても良い選択肢になり得ると感じました。


まとめ


歯みがきが得意な子も、苦手な子も。

大切なのは「無理なく毎日続けられる方法を見つけること」です。

クリスタルジョイのサンプルが(ひとつだけになりますが)ありますので、興味のある方はスタッフまでお声かけください。
2025-09-10 05:00:00

猫の末端肥大症と心筋症の関係~糖尿病との合併症例~

カテゴリ : 内分泌:ホルモンの異常や糖尿病


先週の続き


先週のブログでは、糖尿病の治療が難しい時、その背景に末端肥大症があるかもしれないとのお話をしました。

その最後に「初診時に心不全様の症状が見られました」と書き、次回はそのお話をしますねとお伝えしました。

ただ正確には、心エコー検査で心筋症様の変化が確認されただけで、実際に心不全を起こしていたわけではありません。

今回は、この心筋症と末端肥大症との関係についてです。


初診時に行ったpro-BNP検査


体調の悪い猫ちゃんが初診で来院した際、私は最近、取り掛かりの検査に簡易pro-BNP検査を加えるようにしています。

  • pro-BNP検査とは:心臓に負担やダメージがあるかを簡単に確認できる血液検査
  •  
  • 使い方:ダメージがある場合、点滴などの治療で心臓に負担をかけないよう判断する目安になる
  •  
今回の猫ちゃんは、pro-BNPで「ダメージ有」の判定でした。


心エコーで確認された心筋症様の変化


そこで心臓にエコーをあてて確認をしました。冒頭のエコー動画になります。

ただし、この検査は緊急の簡易エコーで、一断面しか見ておらず、心電図とも同期させていません。

下はその動画のある瞬間の静止画です。



心臓の右・左を隔てる壁の厚さが8.4mm、左側の壁が8.1mmと分厚く、肥大型心筋症を思わせる見え方でした。

基準値は5.5mm程度までとされています。

しかし、糖尿病によるひどい脱水があったこともあり、これは一時的な変化である可能性が高いと考えました。


脱水による心臓壁の見え方


脱水があると心臓に戻る血液量が少なくなり、心臓自体が縮むため、壁が厚く見えます。

脱水が改善され血液量が正常に戻れば、心臓のサイズも元に戻り、壁の厚さも正常に近くなります。

ただ本当に心筋症があるかもしれないので、点滴は心臓に負担をかけないよう慎重に実施しました。


脱水改善後のエコー所見


糖尿病の治療が進み、後日脱水が改善された時のエコー動画です。




下はこの動画のある瞬間の静止画です。




  • 壁の厚さ(心室中隔):4.8mm
  • 左側の壁:5.8mm
  •  

左側の壁はやや厚めでグレーゾーンでしたが、6mmを超えなければ心筋症とは判断せず、この時点では「もとに戻ってよかった」と単純に考えていました。


末端肥大症が関与している可能性


その後、先週のブログでお話したように、IGF-1測定から末端肥大症の疑いも出てきました。

そうなると、グレーゾーンである5.8mmの意味合いも変わってきます。

末端肥大症では、成長ホルモンの過剰分泌が心筋にも影響を与え、心筋が厚くなることがあります。

今回の猫ちゃんの心筋肥大も、糖尿病による脱水の影響だけでなく、末端肥大症が関わっていた可能性があります。

そのため、今後は糖尿病の管理と並行して、定期的に心臓の評価を続けることが重要となりました。
2025-09-03 12:41:24

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