
ある日、
「昨夜、呼吸が速かったように思います。食欲もありませんでした。今朝は昨日よりは落ち着いているように思いますが、パウチも半分くらいしか食べていません」
という主訴で猫ちゃんが来院されました。
昨日よりは落ち着いているとのことでしたが、診察時の呼吸数は1分間に60回近くありました。
院内での緊張の影響も考えられましたが、それを考慮してもかなり速い呼吸でした。
聴診では明らかな異常は確認できませんでした。
レントゲン検査と心エコー検査
呼吸が速い猫ちゃんを診察するときは、「肺の病気」だけでなく「心臓の病気」も考える必要があります。
特に猫では心筋症による心不全が呼吸促迫の原因となることも少なくありません。
そこでレントゲン検査とあわせて心エコー検査も実施しました。
心エコー検査では、左心房拡大や著しい心筋肥厚など、心不全を強く疑う所見は認められませんでした。また胸水の貯留も確認されませんでした。
一方、レントゲン検査では右肺後葉に白い影(オレンジの〇の箇所)が認められました。
CBC検査では特筆すべき異常は認められませんでした。
これらの検査結果から、この時点では心疾患よりも肺の病変が主体である可能性が高いと考えました。
肺炎を疑い治療開始
突然の呼吸促迫とレントゲン所見から、まず肺炎を疑いました。
特に誤嚥性肺炎も鑑別のひとつとして考えました。
白血球数の上昇(細菌感染や炎症があると上昇)は認められませんでしたが、炎症所見は発症初期には血液検査に反映されないこともあります。
当院ではSAA検査(炎症を調べる検査)は外注検査のため当日結果を確認することができません。
そのため、今後の炎症の進行も考慮し、抗生剤を投与することにしました。
また、この猫ちゃんは非常にシャイな性格で、通院や投薬そのものが大きなストレスになることが予想されたため、持続性の注射薬を選択しました。
酸素室で経過観察
まずは酸素室でお預かりし、呼吸状態を観察することにしました。
午前中から夕方まで酸素室で管理したところ、酸素の効果もあったと思われますが、呼吸状態はやや改善しました。
ただし、それでも呼吸数は1分間に40回前後あり、正常とは言えない状態でした。
一方で、夕方には飼い主さんが持参されたフードをある程度の勢いで食べてくれました。
呼吸状態が改善傾向にあったこと、食欲が戻りつつあったこと、そして猫ちゃんの性格も考慮し、容態が悪化するようであれば再入院することを前提に、一旦ご自宅で経過を見ていただくことになりました。
翌日の様子
翌日、お電話で様子をうかがったところ、
「呼吸はまだ少し速いですが、最初よりはましです。ご飯もある程度食べています」
とのことでした。
そのため、ご自宅で慎重に経過観察を続けていただきました。
1週間後の再診
1週間後の再診では、呼吸はすっかり落ち着き、食欲も回復していました。
再度レントゲン検査を行うと、一部にはまだ白い影が残っていたものの、初診時と比較するとかなり改善していました。

※白い影がほとんど消えています
呼吸が速いときは早めの受診を
今回の症例では、呼吸が速いという比較的わかりやすいサインがきっかけとなり、早い段階で受診につながりました。
猫は体調不良を隠す動物です。
しかし、
・なんとなく呼吸が速い
・ご飯を残すようになった
・いつもより元気がない
こうした変化が病気のサインであることも少なくありません。
呼吸が速い場合、肺炎だけでなく心筋症や心不全、胸水、喘息などさまざまな病気が隠れている可能性があります。
今回の猫ちゃんは幸い改善してくれましたが、「呼吸が速い」という症状は決して軽く考えてよいものではありません。
もし猫ちゃんの呼吸がいつもより速いと感じたら、早めの受診をおすすめします。





















