
1.「初年度は何回か必要です」って言われるけど・・・
みなさん子猫をワクチン接種のため病院につれていくと「初年度は何回か接種が必要ですよ」って言われますよね。
で「注射を何回もして痛くてかわいそう、1回で済めばいいのになぁ」って思いますよね、だってかわいい子にチク、チクって何回も嫌ですよね、僕だって気持ちは一緒なんですよ。
それではそんな思いにもかかわらず何故、複数回の接種を勧めているのかをお話しますね。
2.子猫は”お母さんの抗体”で守られている
複数回接種の必要性を説明するためにはワクチンの「感受性の窓(window of suspectibility」って考え方が重要になってきます。
生まれたばかりの子猫は全く感染症に無防備ってわけではなくお母さんから母子由来抗体(maternal autoantibody)って呼ばれる秘密兵器を受け継いでいてそれでウイルスやバイキンなどの病原体を打ち負かしているのです。
この母子由来抗体は生後6週目から8週目くらいになるとその量がゼロにはならないですが少なくなってしまい病原体を打ち負かすことが出来なくなってきます。
3.ワクチンを打つタイミングが難しい理由
それでこの時期から抗体の量を増やすように体にきっかけをあたえなければなりません。そのきっかけがワクチン接種になります。
このような抗体は母子由来抗体にたいしてワクチン誘導抗体(Vaccine-induced antibodies )とよばれます。
ワクチン接種はその刺激でワクチン誘導抗体の量を増やし病原体に対抗しよという戦略です。
ところが母子由来抗体が少なくなり病原体を打ち負かすには充分な量ではでないがまだ残っている時期はワクチンを接種しても母子由来抗体の影響でワクチン誘導抗体の量を充分に増やしてあげることができません。
この期間を「感受性の窓」と言います。
4.感受性の窓は猫ちゃんごとに違う
グラフの縦軸は抗体の量、横軸は週齢、オレンジのグラフは母子由来抗体の量、ブルーのグラフはワクチン誘導抗体の量を表しています。
感受性の窓はだいたい生後8週齢から生後16週齢の期間とされているのですがその猫ちゃんにより様々です。
ある猫ちゃんはもう8週目で母子由来抗体が無くなってしまっているかも知れず、それなら早く初回のワクチンを接種してあげないといけません。
またある猫ちゃんは16週目くらいまで母子由来抗体が残っている可能性もあり、8週目で接種したワクチンが無効になってしまっているかもしれません。
初回ワクチンのベストな接種時期はその猫ちゃんにより違うのです、その猫ちゃんにはその猫ちゃんのベストな時期があるのです。
5.だから複数回の接種が必要なんです
ベストな時期は抗体検査という検査を実施すればわかるのですが費用的なことやベストな時期が見つかるまで検査を続けるのかというような問題もあり実際は行われないことが一般的です。
それで取られている方法が複数回接種なのです。
ジャック君という子猫がいたとします。
ジャック君の母子由来抗体が無くなるのは8週齢目くらいかもしれませんし12週齢くらいかもしれません。
ひょっとしたら16週目くらいまで残っている可能性も。
だからどのタイミングで母子由来抗体が無くなっていても病原体に対応できるようにそれぞれの週齢でワクチン接種をするのです。
無駄な接種になっている可能性もありますが、病原体に無防備な期間をつくってしまう事の方が怖いのです。
次回は当院でのワクチン接種スケジュールについてをお話しますね。