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FIP:猫伝染性腹膜炎 ウエットタイプ 3症例

カテゴリ : 感染症・予防
本年5月8日、15日のブログでFIP:猫伝染性腹膜炎の診断や治療、費用につて話題にしました。

その後も3匹のFIPウェットタイプの猫ちゃんに携わる機会がありました。
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1匹目 ブリティシュ・ショートヘアー ♂ 4歳

1か月前からの下痢・食欲不振で来院。

エコー検査画像









皆さんは普段猫ちゃんのお腹のエコー画像など見られることはまずはないと思いますのでこのような画像を並べられても「何のことかな?」となると思います。

今回詳しい説明は省きますが「小腸の筋層と呼ばれる個所が腫れており、お腹のリンパ節という場所も腫れており、腹水もたまっている」ことからまだまだ若いのですが何か腫瘍性の疾患でもあるのかなと考えました。

当院が2件目の病院で症状が1か月間も続いていることからこれ以上当院で時間を使ってはいけないと考え直ぐに二次病院の消化器科を受診していただきました。

結果はFIPのウェットタイプで抗ウィルス薬の内服で直ぐに改善傾向を示したとの事でした。
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2匹目 日本猫 MIX 年齢不明5歳くらい ♀

1週間前からの食欲不振







一般的な血液検査を実施したのですが特に大きな異常がなく、とりあえず把握できた異常は腹水でした。

腹水をFIPの遺伝子検査に出してみたところ陽性でした。この病気をおこすのは猫コロナウィルスですので猫コロナウィルスの遺伝子検査をします。ヒトにはうつる心配はありません。



FIPウエットタイプと診断。

抗ウィルス薬の内服薬を処方したところ直ぐに食欲の回復をみました。

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3匹目 スコティッシュ・フォールド 8か月 ♂

去勢手術のため来院されたのですが血液検査で著しい黄疸と様々な数値で異常を、また腹水を認めました。

初めの問診では食欲はありますとの事だったのですがあらためて質問しますと「そう言えば食べてはいるけれど量はかなり減っている」とのことでした。

腹水があるとお腹が張ってくるのでそれを見て充分に食べていると思われていたのでしょうね。

エコー検査で腹水を確認しました。


腹水の遺伝子検査を実施、猫コロナウィルス陽性でした。

FIPウェットタイプと診断。



抗ウィルス薬の内服薬を処方 直ぐに食欲の回復をみました。

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2匹目、3匹目の子は当院で治療にあたらせていただいたのですが当院では海外ジェネリック薬品を個人輸入して使用しています。

2次病院を受診していただいた1匹目の子は日本で先発・正規品として発売されているお薬が使用されていました。

当院で海外ジェネリック薬品を使用している理由としては先発・正規品は納入価が高く当院のような個人病院ではいつ使用するかわからないお薬を常に在庫しておくことが難しいのです、お薬にも当然使用期限があるからです。

今回はわずかな短い期間(2か月間)で3頭のFIPの猫ちゃんにかかわり2頭の治療に当たらせていただきましたが小さな個人病院では珍しいケースかと思われます。

「病気の診断がついてから先発・正規品を入荷すればいいんじゃじゃないの」となりますがFIPは一刻をあらそうこともあり「あやしい」と感じたら直ぐにでも投与してあげたいのでやはり在庫しておきたいのです。

海外ジェネリック薬品の方は納入価が先発・正規品に比べかなり経済的ですので常時在庫が今のところできています。


オーナー様にはジェネリック薬品を使用すること正規品を処方してくださる病院があり紹介も可能であることをお伝えしています。



このお薬(当院で使用しているお薬)を正規品も含めてFIPの治療に使用することに対して否定的な意見があります。

使用するにしても最初は別の種類のお薬を使用し次の選択肢としてこのお薬はとっておいた方が良いとの意見があります。


本来は人用のお薬で中の粉薬をカプセルで遮光して効能を保っているのですがそれを猫ちゃんの体重に合うように中の粉薬をカプセルから出して分包しています。84日間の投薬が必要なのですが当院では数日間分ずつ処方しできるだけ光があたらないようには努めています。

ジェネリック品の海外個人輸入ではいつ入手できなくなるかわからないという危険があります。治療開始に当たってはその子の分が確保できている事を確認しています。

FIPにはウェットタイプの他にドライタイプや神経症状タイプ、それらのタイプが合わさる混合型があ
ります。これらのタイプは治療がより難しい傾向にありウェットタイプ以外のケースでは治療の選択肢を複数持っておられるFIPの治療経験が豊富な動物病院で受診された方が良いと考えています。

当院で今回2匹治療に当たらせていただいたのはその子たちがウェットタイプのFIPでありかつある程度食欲を示していたからという面もありました。

私自身経済的だからと言ってこのお薬でFIPの治療にあたって良いのかという葛藤があり第一選択としては別のお薬を、このお薬を使用するにしてもジェネリック品ではなく先発・正規品を使用した方が良いと思います。

ただそれらのお薬はやはり高額(高額と感じる価格は人によって違いますが)となることが多くその事で治療をためらわれてしまうオーナー様がいらっしゃいます。

そのような方に当院で使用しているジェネリック品のお話をさせていただくと「それなら治療を受けてみます」となるのですが(当然そのような選択になると思いますオーナー様がひどい選択をされたのではなくそのような選択肢を示した当院の責任です)・・・「それは良いことだったのかなあ」、「もう少し説得して別のお薬や正規品を処方してくださる病院を受診いただいた方がよかったんじゃないのかなぁ」「治療をあきらめていた猫ちゃんが助かるのならこのお薬を使用してもというのは単なる言い訳になっていないかなぁ」と考えてしまいます。





2024-09-18 07:00:00

FIP:猫伝染性腹膜炎の診断と治療

カテゴリ : 感染症・予防

 
ある日「2,3週間前から体調が悪い。お腹が出てきており昨日から食欲がない」との事で10歳の黒猫さんが連れてこられました。

診断について

画像(エコー検査のために毛を刈っています)ではお伝えしにくいのですが、一目でお腹が張っている様子が分かりエコー検査で腹水が確認されました。

※画面の上で波打って見えているのが腸、右下に一部見えているのが腎臓、途中に画面の左側から肝臓が見えてきます。その間で見えているのが腹水ですが健康な子ではこのように多量には認められません。



↑エコーの静止画です。楕円形に見えているのが腎臓でその前後(画面左側が前側です)で黒く見えている箇所が腹水です。

お腹に針を刺してみますと黄色い液体が吸引されました。



このような黄色い液体が吸引された場合はFIP(猫伝染性腹膜炎)が強く疑われます。

またFIPは多頭飼育の猫ちゃんで発症リスクが高まることが知られているのですがこの子も他6匹と同居していました。この事もFIPを強く疑がわせる根拠となりました。

少し専門的になりますがFIPは今回のように①胸やお腹の中にお水が溜まるタイプと②お水は溜まらずに腎臓など内臓にお肉のかたまりができるタイプと③眼の症状や神経の症状を伴うタイプに分けて考えます。

このタイプ分けは抗ウイルス薬の内服量を決める際に重要になって来ます。ただ最近は①と②は併発することもあるので分けて考えないこともあるようです。

FIPとの確定診断を得るために、エコー以外の検査も実施し以下の結果を得ました。

↓血液のTP、ALB


↓腹水のTP、ALB


↓AGP検査、猫コロナウイルス抗体検査、猫コロナウイルス遺伝子検査


詳しい解説は今回省略させていただきますが以上の結果からFIPと確定診断しました。

治療について

今回のケースでは前々日まで食べていたとのことでしたので内服薬の使用が可能と判断し当院で治療を引き受けさせていただきました。

食欲が完全に廃絶し何日間か経過しているような子の場合は抗ウイルス薬の注射を利用できる病院で治療を受けていただいた方が良いかと思います。

AGP検査や抗体検査、遺伝子検査の結果が出そろい確定診断を得るまでは2,3日かかります。

それまでの期間はFIPと仮診断しステロイドの内服薬を処方しました。FIPは全身性の炎症性疾患です。ステロイドには炎症を抑える作用が期待できるからです。

この黒猫さんはステロイド内服開始の翌日には食べ始めました。

確定診断ののち抗ウイルス薬の内服を開始しました。

内服開始およそ3週間後のエコー動画です、上の動画と同じ箇所ですが腹水がほとんど消失しています。



↑エコーの静止画です。腎臓の前後で見えていた黒い箇所が消失し腹水が減少したことが分かります。

現在、お腹の張りも無くなり元気・食欲も旺盛です。
2024-05-15 07:00:00

FIP:猫伝染性腹膜炎の治療費用について

カテゴリ : 感染症・予防


FIP(猫伝染性腹膜炎)は猫コロナウイルスによって引き起こされる感染症です。

以前はこれと言った特効薬がなく致死的な恐ろしい病気と考えられていたので
すが、数年前に抗ウイルス薬を使用した治療法が発表され回復の見込める病気
となってきました。

当院では抗ウイルス薬としてモルヌピラビルというお薬のジェネリック薬品を在庫しています。

抗ウイルス薬としては他にGS-441524やレムデシビルというお薬があり海外からの輸入になるのですがとても高価なお薬で当院のような個人病院では在庫しておくことが難しいです。

モルヌピラビルについては先発品の取り扱いが日本であるのですがやはり高額
なため在庫しておけません。

いずれの抗ウイルス薬も84日間投与が必要です。

当院ではモルヌピラビルのジェネリック薬品を現在のところ1日分600円で処方しております。(現時点では1ボトル7000円くらいで入手可能ですのでそこから考えますとかなり高い価格設定になっています。将来的にはもう少し抑えられればと考えています。)

FIPの診断には血液検査、レントゲン検査、エコー検査、胸水・腹水検査などを組み合わせ行うのですが確定をするまでに4~5万円くらいかかります。

ですので合計の費用は抗ウイルス薬以外の内服薬、治療効果判定のための追加検査費用なども含めて考えますと3か月間でおよそ15~20万円くらいになります。

「投薬により体調が回復してきていますので追加の検査を省略しましょうか」あるいは「一部の検査を省略しましょうか」ということでよろしければもう少し費用を節約することが可能です。12~15万円くらいの範囲に収まるかと思います。(できれば追加の検査は受けていただいたほうが良いのですが・・)

治療を希望される方はまずはお電話でご相談ください。

注意事項

①モルヌピラビルのジェネリック薬品を使用します。

②現在いくつかの理由でモルヌピラビルの使用については否定的な意見があり
ます。

③モルヌピラビルは内服薬になりますので食欲が完全になくなってしまった猫
ちゃんには使用が難しいです。

④モルヌピラビルの在庫は1~2匹分となり常に確保できているわけではあり
ません。

⑤今後モルヌピラビルの取り扱いを中止することもあります。

次週は実際にモルヌピラビルを使用した猫ちゃんについてお話をします。
2024-05-08 07:00:00

猫のフィラリア症予防 再度のご提案③

カテゴリ : 感染症・予防



先週の続き今回はご提案の最終回で予防方法についてです。

ワンちゃんでは1月毎に錠剤や散剤、おやつタイプのお薬の内服、液体のお薬を皮膚に滴下、1年に1回の注射などいくつかの方法があります。

一方猫ちゃんでは今のところ日本国内で承認されているお薬は液体の皮膚滴下タイプのみで1月毎に投与します。



この皮膚滴下タイプのお薬はフィラリアの他にもノミやマダニなどの外部寄生虫、回虫などの消化管内寄生も同時にターゲットにしているためフィラリア予防を目的とすると必要のないお薬の成分が別に2つ入っています。

少し抵抗感を感じるかと思いますが安全性は確立されています。

少しでも余計なお薬は投与したくないということであれば猫ちゃん用の消化管内寄生虫駆除薬として販売されているお薬がフィラリア予防には認可外(海外ではフィラリア予防の認可が下りています)ですが利用できます。

ただこのお薬にもミルベマイシン、プラジクアンテルという2つの成分が入っておりこのうちプラジクアンテルはフィラリア予防には必要ありません。

ところでワンちゃんの飼い主様であればフィラリア予防薬の投与を開始する前に血液検査をして現在フィラリアに感染していないかどうかのチェックが必要な事はご存じですよね。

これは万が一フィラリアに感染していて血液中にミクロフィラリアがたくさん泳いでいる状態の子に予防薬を投与してしまうとたくさんのミクロフィラリアが一斉に死滅しショック症状をおこす可能性がありそれを避けるためです。

猫ちゃんでは先週のブログでも話題にしましたようにミクロフィラリアがたくさん血中を泳いでいる状態というのはなかなか考えづらく、そのため臨床現場では血液検査なしで処方されている事が多いのではないでしょうか?

当院では念のため健康診断時の血液検査項目にフィラリア抗原抗体検査(ゴールドスタンダードではありませんが)も含めておき感染の有無をチェックしています。
2024-04-10 07:00:00

猫のフィラリア症予防 再度のご提案②

カテゴリ : 感染症・予防

                          作画:当院スタッフ

先週の続きです。

今回はフィラリア症の診断方法についてお話しします。

その前にフィラリアの一生は

感染動物の心臓や肺動脈と呼ばれる血管内でミクロフィラリア(フィラリアの赤ちゃん)が誕生

ミクロフィラリアが感染動物の血と一緒に吸血され蚊の体内へ、第3期幼虫まで脱皮したところで蚊の口元まで移動

蚊がまた別の動物を吸血しその動物へ第3期幼虫が感染

皮下や筋肉内で過ごし第4期幼虫に、その後第5期幼虫になったところで血管内へ移動し心臓や肺動脈へ到達、成虫になる

オスとメスが出会いミクロフィラリアが誕生

という感じです。

それではフィラリアの診断方法について

※陰性結果の画像しか用意できませんでした。

①血液中にミクロフィラリアが泳いでいないかを顕微鏡で見てみる。



②フィラリアの成虫から出ているある成分(抗原といいます)を検査キットで検出。(ワンちゃん用ですが一応猫ちゃんにも利用できます。)



③フィラリアの幼虫を排除するために感染動物が作り出した武器(抗体といいます)が血液中に出ていないかを検査センターさんに血液を送り調べてもらう。
抗体検査は猫ちゃんのみの検査でいっしょに抗原も調べてくれます。



④胸部レントゲン撮影をおこない肺動脈と呼ばれる血管が太くなっていないか
を見てみる。フィラリアが感染していると肺動脈が肺静脈の2倍くらいの太さになっていることがあります。



⑤心エコー検査をおこない心臓や肺動脈にフィラリアが住み着いていないかを
見てみる。



以上の5つが考えられます。

ワンちゃんでは②の抗原検査キットを使用した方法がゴールデンスタンダードとして存在するのですが猫ちゃんでは以下の理由でどれも決定打にかけます。

①について、ワンちゃんではオス、メスが同時に心臓や肺動脈で成虫になりそこで出会いミクロフィラリアが誕生という経過は普通なのですが、猫ちゃんの体内ではフィラリアの幼虫が性成熟に達するまで成長することが難しく、成長してもオスだけメスだけということが多くミクロフィラリアが誕生しづらい

②について、この検査キットは主にメスのフィラリアが出している成分を検出するもので猫ちゃんではオスのフィラリアのみが寄生していることもありその時は検出できない。

③について、この検査は第四期幼虫までの幼虫に対して作られた抗体を検出するものでそれ以降の幼虫や成虫は検出できない。

④について、肺動脈が太いからと言ってフィラリア症とは限らない。フィラリア症で必ず太くなるわけではない。

⑤について、心臓や肺動脈に寄生している成虫のみ検出可能で幼虫は検出できない。フィラリア成虫の確認がエコー検査技術者の技量に左右される。私自身もワンちゃんではフィラリアが寄生している心臓や肺動脈は過去に何度も見たことはあるのですが猫ちゃんではありません。

実際に猫のフィラリア症を疑った場合の検査としては③、④、⑤などを組み合わせて行っていくことになります。

次週に続きます。
2024-04-03 07:00:00

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猫のフィラリア症ムービー(リンク先に動画があります)
https://www.nekomamo.com/parasite/filaria/movie/

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