「そう言えば家の猫もうおじいちゃん・おばあちゃんなのになんか食べ物を今まで以上にほしがるなぁ。まあよく食べてるから健康なんだろうな」ということはありませんか。
ひょっとしたらそれはホルモン(甲状腺ホルモン)の出すぎる病気のあらわれかもしれません。甲状腺はのどのあたりに左右一つずつあります。
ここが大きくなり大きくなった分ホルモンがたくさん出てきます。このホルモンの働きは単純なものでは
ないのですが簡単にいえば「体に活力を与える、体の中でエネルギーを爆発させる」ホルモンです。
必要以上にエネルギーを消費しますのでお腹が減り、よく食べるのにやせてきます。またありあまったエネルギーが猫ちゃんを攻撃的な性格に変貌させるかもしれません。またホルモンというムチでお尻を叩かれ無理やりに走らされているのと同じですから内蔵(特に心臓や肝臓)に負担がかかってきます。
この病気は最初にお話ししましたように「食べてるからいいかな」ということで見過ごされがちで、別の病気で来院された時や健康診断の時に見つかる事が多いです。
下にある猫ちゃんの血液検査結果を示します。
一番したのTT4というのが甲状腺ホルモンのことです。基準値の上限のおよそ3倍になっています。
数か月前から異常な食欲で性格も変わったとのお話でした。このオーナー様も別の症状の相談で来院されましたので異常な食欲については病気と考えられてなかったものと推察されます。
肝臓の健康の指標であるGPT が255 U/l となっています。基準値の上限の3倍の数値で肝臓にも負担がかかっていることが分かります。
同じ猫ちゃんのレントゲン写真とエコー画像です。
心臓が肥大しています。
心臓の左側を縦切りにして見ているのですが、心臓の左右を分ける壁の厚さが6mmとなっています。
正常は5mmまでと言われています。(体動のため心電図がみだれてしまいました)
いずれの所見も心臓に負担がかかっていることを示しており甲状腺ホルモンの影響によるものと考えます。
下の写真はこの猫ちゃんの左側の甲状腺のエコー画像です。
画像上の米俵みたいにみえるものが甲状腺です。長さは17.1㎜(基準値は20㎜くらいまで)と正常範囲ですが、厚さが7.7mm(基準値は3mmくらいまで)と分厚くなっています。
これくらい大きくなりますと普段は触診で分かりにくい甲状腺も直ぐに触れるようになります。あまり触りすぎると一気に甲状腺ホルモンが放出されよくありません。
老齢な体に甲状腺ホルモンというムチで必要以上にたたかれ無理やり走らされるのは、最初は元気な証拠に
見えるかもしれませんが、やがては体の破綻を招きます。
老齢な猫ちゃんが異常な食欲を示していたら、かかりつけの先生に一度相談してみてください。
治療はホルモンの働きをブロックするチアマゾールというおくすりや、ヨウ素という成分が甲状腺を活発にさせますのでそのヨウ素を制限したy/dというフードを利用したり、甲状腺そのものを外科手術で切除したりします。
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チアマゾール投薬後2週間目の血液検査結果です。
一番下TT4値(甲状腺ホルモン)の値が1.1 μg/dlと改善しておりました。
異常な食欲もおさまっているとの事でした。
肝臓への負担もおさまってきたのか、肝臓の健康の指標であるGPT値もおちついてきました。