ある日「3日前から元気がなく、食べては嘔吐していた。昨日今日は食べておらず嘔吐が続いている。」との相談を受けました。
嘔吐はたくさんの病気で認められる症状ですので決めつけはよくないのですが、「膵臓や肝臓、腎臓が問題をおこしてるのかな」、「高齢なので胃腸にデキモノがあるのかな」、「2日前までは食欲はあったようなので単純に毛玉でも胃にたまっているのかな、それとも何か飲み込んだかな」などと考えながら診察に当たります。
まず触診をしてみました。小腸などにできたデキモノがある程度おおきくなっていり、腸で何か詰まっていたりすると触診で発見できるケースがあるからですが、今回は問題ないように感じられました。
次に毛玉のチェックのために簡単に胃にエコーを当ててみましたがこれも問題ありませんでした。
膵臓・肝臓・腎臓の問題は血液検査でみていきます。
血液検査では猫膵特異リパーゼという値が異常値を示しましたので、オーナー様には「膵炎かもしれませんね。」とお話ししました。
リパーゼは膵臓から分泌される消化酵素の一つで脂肪の分解にかかわっています。膵臓が炎症をおこすとリパーゼが漏れ出し自分の体を消化するようになり、腹痛・食欲の減退・嘔吐・下痢などの症状を引き起こすようになります。
ただ膵炎などの激しい炎症の場合、猫SAAという数値が異常に跳ね上がることが一般的ですが今回正常値
であったことが心に引っかかりました。
SAAは血清アミロイドAというものですが、膵臓に限らず体のどこかで炎症があると急激に増えてくると考えてください。
先ほどの続きになりますがオーナー様には「膵炎かもしれませんね。症状は膵炎と一致します。だた膵炎と診断するにはSAAが正常であるのが気になります。4,5日膵炎の治療を行ってみて改善が乏しいようなら二次病院での精査をお願いします」と説明し治療を開始しました。
5日間治療を続け嘔吐はおさまりましたがチュールを2,3本食べるようになっただけで改善には至りませんでしたので二次病院にCT検査を依頼しました。
その結果が上記の画像です。ピンクの矢印で示した部位になるのですが、膵臓に癌がみつかりました。その右上の三日月状に見えている臓器は脾臓です。
病理細胞診検査の結果「膵外分泌腺癌の疑い」とのことでした。
膵外分泌腺とは膵臓にありリパーゼなどの消化酵素を分泌しています。
今回癌化し異常に増えた外分泌腺のため通常よりも多くのリパーゼが分泌されたため猫膵特異リパーゼが上昇し、癌であり炎症ではないので猫SAAは正常であったのかもしれません。
また当院でも画像検査としてレントゲン検査を実施していたのですが、膵臓領域に少し違和感を感じましたが「膵炎を反映した像かな」と考察していました。