猫パルボウイルス感染症は突然の下痢と嘔吐、食欲不振を主な症状とする致死性の高いウイルス感染症です。
血液検査では白血球数の減少を特徴的に認めますので猫汎白血球減少症とも呼ばれます。
このウイルスの恐ろしいところは消毒や乾燥に強よいという事です。汚染場所にとどまりいつまでも感染源となる可能性があるという事です。
先月生後1か月くらいの子猫が保護されてきました。
結膜炎を患っており目やにを認めましたが、フードを与えてみるとよく食べてくれました。
保護猫さんで心配になってくるウイルス感染症はいくつか存在するのですが全てを直ぐにチェックすることはできません。院内では猫エイズウイルス感染症、猫白血病ウイルス感染症は直ぐに調べる事が可能ですのでチェックしてみますと陰性でした。
ただ心配だったのがこのお宅にはワクチン未接種の先住猫さんが居ました。当院へは保護してから7時間後くらいに来院されており先住猫さんとの接触はさせていないという事でしたので、オーナー様には引き続き安全のため1か月は隔離期間を設けていただくようお願いし目薬と内服薬をお渡ししました。
それから1週間後「最初の2日間は非常によく食べていたがそれ以降食欲が低下し黒いウンチをするようになった」との事で再来院されました。目やには改善しておりました。
血液検査をしますと白血球数が減少をしておりパルボウイルス感染症が頭をよぎりました。
抗体検査を実施しますとIgM抗体 陰性、IgG抗体 陽性(20倍)との結果でした。
抗体とは病原体を退治するための武器で、その存在は過去にその病原体に感染していた、または現在感染しているという事が言えます。
IgMやIgGは抗体の種類です。IgMという武器は感染初期に作られやがて消えていき、前後するように今度はIgGという武器が作られてきます。
IgGのみ陽性であることから感染からある程度時間が経過していることが推察されます。
この保護猫さんは生後直ぐあるいはお母さんの体内で既に感染していたのかもしれません。
この感染症には特効薬がなく点滴などで体力を維持しその子の生命力に期待するしかない致死率の高い病気です。
この保護猫さんも治療開始2日後に残念ながら亡くなってしまいました。
それからもう一つ恐れていたことが現実となってしまいました。
保護猫さんが亡くなってから5日後、今度は先住猫さんが「突然食欲が無くなり嘔吐・下痢が始まった」との事で連れてこられました。
血液検査では白血球数の減少が見られ、抗体検査ではIgM(40倍)、IgG(160倍)ともに陽性でした。
今回は糞便を使った抗原検査も行うことができました、結果は陽性でした。FPV-Agという項目のところです。
抗原とはウイルスそのものの事です。抗原検査陽性ということは便からウイルスが見つかったということです。
IgM、IgGがともに陽性であることから感染初期から中期にさしかかったところではと推察されます。
オーナー様は1階と2階で保護猫さんと先住猫さんを分けるなど注意されていたようですので、手や足、
衣服に付着したウイルスを運んでしまっていたのかもしれません。
また直接の接触はなかったが先住猫さんが保護猫さんの匂いを嗅いでいる瞬間がわずかながらあったとの事でした。
あらためてこのウイルスの恐ろしさを見せつけられた思いでした。
パルボウイルスは一般的な3種混合ワクチンで予防することができます。
猫好きさんは子猫が鳴いていると何とかしてあげたくなってしまいますよね、ただ子猫に触れる前、保護する前にご家庭の猫ちゃんがワクチン接種済みであるかを再認識してください。
お家に猫がいない方に保護をお願いする事も考えてみてください。
どうしてもご家庭に連れて帰られる場合でも、最低でも1か月は隔離期間を設けて、手洗い衣服を着替えるなど感染対策には十分配慮ください。
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先住猫さんは支持対症療法で回復し現在元気よく暮らしています。