ある日「急に食べたものを嘔吐し、その後胃液を吐き続けている。食欲もない。昨日までは普通だった。」という猫ちゃんが連れてこられました。
問診や触診、検査の結果から肝疾患と診断し治療を始めました。
肝疾患と診断した理由は肝臓に何らかの問題があると血液検査でALT(GPT)という成分が異常値を示すのですが、初診時にALTの値以外は他に目立った異常が見つからなかったからです。
実際猫ちゃんでも急に肝臓に負担がかかり(負担がかかるとALTが上昇したりします)、結果嘔吐・食欲不振につながることが結構あるからです。
そこで治療を開始したのですが反応はあまりよくありませんでした。嘔吐は治まったのですが、1日にチュールをがんばって3~4本食べるのがやっと、軟便・下痢もおこすようになったという状況でした。
その後何とかドライフードも食べてくれることがわかりましたので、軟便対策として下痢・軟便用の病院食も与えてもらうようにしました。
ドライフードに切り替えた数日後「2日間便をしていない。きばるが出ない、途中であきらめてトイレから出てくる」という説明がありました。
この時に初診時「硬い便を少しづつしていた」というオーナー様がされていたお話に思いが至りました。
もう一度初診時のレントゲン(上の画像です)を確認してみますと何やら便が肛門の手前でせき止められているようにも見えます。
理解していただきやすいよう矢印をつけてみます。下の画像です。
オレンジのラインが直腸でその中身が便でなのですが、ピンクの矢印のところでせき止められています。
肛門から人差し指を入れると1cmくらい進んだところ、ちょうど矢印のところで直腸が巾着袋の入口を閉めたように狭窄しておりそれ以上指を進めることができません。
この猫ちゃんには本当に申し訳のない事であったのですが、体調がすぐれなかった主たる原因は肝臓の不調ではなく、この直腸の狭窄により便が出づらいためであったとこの時に気づきました。
チュールだけの時は正常な硬さの便にならず、量もさほど多くなかったので軟便として何とか狭窄部を通過していたものが、ドライフードを食べるようになって正常な硬さ・ある程度の便量になってしまったので狭窄部を通過出来ず2日間便が出なかったのでしょう。
オーナー様にお願いし二次病院で精査を受けていただきました。
狭窄部での腫瘍の発生が心配だったのですがそうではありませんでした。
治療としては狭窄部の外科切除や人工肛門の設置などが提案されましたが、オーナー様の希望により保存療法としました。
具体的には他製品よりも便量の少なくなる下記ドライフードと、ラクツロースと呼ばれる便を軟便ぎみにする水薬りを使用していただくこととしました。
現在、食欲・排便(軟便状態ですが)ともに問題ないようです。