先週末「トイレに何回も入りおしっこが臭います。食欲もありません。お水はたくさん飲んでいた。腎臓病でしょうか?」と老猫さんが連れてこられました。
オーナー様には「腎臓病も心配ですが、糖尿病など他の病気も考えられますね。血液検査でチェックしていきましょう」とお話しました。
採血をしながら「万が一糖尿病ならもう少しだけ発症を待ってもらえていたならインスリンの注射ではなく新しい内服薬センベルゴでの治療を提案してあげられるのになあ」と考えてしまいました。
※センベルゴについては7月17日のブログを参考にしてみてください。本年9月1日より発売されます。
糖尿病の治療にはインスリンの注射が基本1日2回必要なのですがセンベルゴは1日1回の内服で済みます。誰だって1日2回チクリチクリされたりしたりするよりは1回の内服で済めばそちらのほうが良いですよね。
ただしこの新しい内服薬の使用には大切な条件があります。
それは血液中にケトン体とよばれる成分が出ていないという事です。
糖尿病はとういのは何かの理由で血糖というエネルギーを体にとりこむ助けをするインスリンが少なくなったり、効きにくくなったりすることで血糖が利用できなくなる病気とも言えます。
血糖が利用されないままですので血液中に糖分があふれおしっこにも出てくるようになります。これらの出来事は様々な害を体にもたらします。
ところでインスリンの助けを受けられなく糖分を利用できなくなった体は脂肪を分解しケトン体とよばれるものを作りこれをエネルギー源にします。
ケトン体は酸(アッシド)の仲間で溜まってくると血管を傷つけ様々な悪さをします。(このような状況をケトアシドーシスと言います)
ケトン体が出ているという事は自前のインスリンの助けを受けられなくなっている可能性があるという事です。
新しい内服薬センベルゴは増えすぎた血糖をおしっこと一緒に体外に捨てる働きがあります。
余分な糖分を捨てることで血糖値を程よい状態に保ち血糖が高いことでもたらされる害から体を守りましょうという戦略です。
センベルゴは余分な血糖を捨てる働きはあるのですが糖分をエネルギー源としてからだに取り込む働きはなく、その役割はなんとか頑張ってくれている自前のインスリンに頼らなければなりません。
ですのでケトン体が出ている子では自前のインスリンによる糖分の取り込みが全く期待できない可能性がありセンベルゴによる治療の選択はできません。
外部からのインスリン投与による治療が必要になります。
血液検査や尿検査の結果から連れてこられた猫ちゃんは腎臓病ではなく糖尿病でした。
GLU(血糖値)
FRU(フルクトサミン):おおざっぱに言いますと過去2~3週間の血糖値の平均値のようなものです。
GLU、FRUともに高値で尿検査で尿糖も出ていましたので糖尿病と診断しました。
合わせて血液中にケトン体の存在が証明されましたので今手元にセンベルゴがあったとしても治療には利用できませんでした。
老猫ちゃんには入院していただきインスリン投与による治療を実施しました。
血液をチューブに入れ遠心機にかけると血漿と呼ばれるお水の部分と主に赤血球からなる血球とよばれる部分に分かれます。
お水の部分は普通は無色透明なのですが糖尿病が酷いと薄めた牛乳のような色になることがあります。それを「乳び」というのですが下の画像で確認できます。
このお水の部分をある試験紙に垂らしたのですがケトンを調べる箇所が紫色に変化しています。これはケトンが存在するという事です。
インスリン治療を開始しますと体調が回復し食欲も元にもどりました。
下の画像はその時の血液検査時のものですが治療開始前に見られた「乳び」
が消えケトンの反応が無くなっています。
ケトンが消えていますのでセンベルゴへの切り替えを試み毎日の注射チクリから解放してあげられるかもしれません。